ガタン。

ドアが閉まる音がして、私は目を覚ました。

暗い部屋の中で周りがよく見えない。

体を起こしてから、手でスマホがどこにあるのかを探す。

「あった…。今の時間…」

重いまぶたを頑張って開けて、私はスマホで時間を確認した。

スマホには21時18分と表示される。

今日は少し帰ってくるのが遅かったみたいだ。

まあ、そのおかげでだいぶ寝ることができた。

「ふぁ。…一階に降りるか」

この時間は唯一母さんとしゃべれる時間だから、一階にいるようにしている。

こんな私だけど、母さんのことは意外と好きだ。

一階に降りると母さんがご飯を食べている姿が見えた。

「初音…!」

「ごめん、降りてくるの遅くなって」

「ふふっ、いいのよ」

母さんはにこにこ笑って、私に返事をしてくれる。

私は母さんの前の席に座って、ほおづえをついた。

母さんはそんな私を見ながら笑っている。

いつも通りだ。

「お仕事お疲れ様。今日は手術が多い日なんだっけ?朝言ってたよね」

「うん、そうなの。だからすごく疲れちゃった」

「大変だよね〜」

こういう何気ない会話も、実は好きだったりする。

自分は特別でもなんでもない、平凡なんだって感じられるから。

そんなことを感じていると、突然お母さんが心配するような顔になった。

「初音、何かあった?元気ないように見えて…」

「…やっぱり?」

母さんは意外とするどいから、気がついちゃうと思ってた。

だから、あえて否定もしない。

実はまだ蜂屋くんがペアってことが、心の中でひっかかってる。

運命嫌いの私と、その運命を証明した蜂屋くん。

そんな2人が相性98%なんてやっぱり信じられないんだ。

そのことを母さんに話した。

「そっか、そうなんだね。じゃあ明日から寮の部屋が一緒なんだよね?」

「うん…そうなるね」

母さんは少し難しそうな顔をした後、笑って言った。

なんだか安心しているようにも見える。

「意外といい機会になるかもよ?初音が嫌ならそれでもいい。でも、なんだか楽しそう」

「たのし…そう?」

そんな顔してたんだろうか。

私が、楽しそう?

そんな感情抱いたことなかった。

そうか、この胸の高鳴りは“楽しい”っていうことなのか。

「初音がやりたいことやりな」

「うん…!」

なんだかうれしかった。

何にでも心から楽しい!と思えることがなかったのに、たったこれだけのことで楽しいと感じるなんて。

蜂屋くんは私の憧れの人だから。

彼とペアが組めて嬉しくて、楽しいんだ。

「明日が楽しみだね〜。仲良く頑張りなさいよ!」

「もう、なににやにやしてるのお母さん!」

こんな風にじゃれあったのも、久しぶりな気がする。

どうして私は“普通”に生まれられなかったのだろう。

ひねくれた性格も、整った容姿も、決まった将来も全部にくい。

そんな感情を誤魔化すかのように私は笑った。

その時、私のスマホにメッセージが表示された。

『初音って国立のアウロラ学園の生徒だったんだね
しかも医者の家系の七瀬家
いつ聞いても教えてくれなかったのは、隠したかったから?』

私の日常がくずれる音がした。

やっぱり…私ってバカだな。