学校には電車で登校している。

といっても、車でも行けるくらい近い場所だ。

国立アウロラ学園。

天才たちが集まると言われる学校で、私はその学校の特進クラス医学科に入っている。

私はその中でも特に有名な生徒だ。

なんせ「あの七瀬家の娘」なんだから。

勉強熱心で、心優しく誠実な子。

そんな噂ばかり。

噂のせいできゅうくつだった学校生活は、明日からさらに最悪になる。

今までは環境に慣れるためになかったもの。

だけど、高校2年夏休み明けの2学期からあれが加わる。

ほとんどの学校では取り入れられているデステニー。

学校内の生徒を遺伝子相性90%超えをペアにして、お互いを支え合うというもの。

2年に上がるとペアを組まされるらしい。

それに、ペアは寮部屋が同じになるらしい…。

ふざけてんな、マジで。

スマホをいじりながらそんなことを考える。

画面には最近知り合った男とのやりとりが表示されている。

『今日って暇だったりする?』

私は面倒だと思ってしまって、断った。

『今日は無理かも。別の日にお願い』

そう送信すると、アウロラ学園の最寄駅に着いた。

それに気がついてスマホをしまい、ささっと降りて気持ちを切り替える。

学園での私のイメージを壊すわけにはいかない。

今日も一日頑張らなきゃ。


***


「七瀬様、おはようございます!」

「おはよう」

「きゃー!!!」

こんなにさわがしいのも、すっかり日常になってしまった。

今日は始業式の後ペア発表が行われる。

ちなみに、ペアは同じ学年か1年か。

1年はペアを組まなくていいんだ。

まあ、まだ学校生活にも慣れていないからね。

あの頃に戻りたいよ。

「ねえ、見て。蜂屋(はちや)くんだよ」

「っ…!」

私は目の前にいた女子生徒達が指さしていた方を見た。

そこにいたのは、赤色のネクタイをした男子生徒。

1年は赤、2年は青、3年は緑とカラーが決まっている。

つまり、1年生。

1年生とはほとんど接点はないが、私は彼の名を知っている。

蜂屋雪那(はちやせつな)くん、デステニーの開発者であり天才と言われて続けている高校1年生。

そして、私の憧れの人。

私がじっと見つめていることに気がついたのか、蜂屋くんは私の方を見た。

目があってしまって、焦ってすぐに顔をそらす。

それから、私は逃げるように校舎に入った。

私は彼と関わってはいけない、そんな気がするから。

数分経ってようやく落ち着いてきて、私はクラスに向かう。

荷物を置いてから、始業式場所である体育館に行けばいい。

またたくさんの視線をあびながら、私は廊下を歩いていった。


***


始業式と学級での時間が終わり、2年と3年は多目的室に集まることになっている。

これからペアが発表されるのだ。

「初音」

友達の声が聞こえて、私は振り返った。

そこにはいつも話をしている伊集院羽那(いじゅういんはな)と、天宮城詠(うぐしろうた)がいた。

「どうしたの?」

いつもの笑顔で、私は返事をした。

「一緒に行きましょう!はぁ〜、今から運命の人に会えるかもなんて楽しみです!!!

目をキラキラさせて言う詠に、私は苦笑いをした。

「ごめんね初音。あなたはこういうの嫌いでしょ?」

「…うん」

それから私達は、一緒に多目的室に向かった。

その間うまく笑えない私を、羽那はじっと見ていた。