私達はいつもの空き教室…あの日雪那に告白された場所に来た。

「話してくれる?」

「うん…」

ふっと雪那は笑って、私の頬に触れた。

その温度が気持ちよくて、私も笑う。

「私ね…母さんを傷つけたの」

私は静かに語り出した。

私にはもちろん父さんがいた。

5年前に離婚したけど。

私が2歳の頃に再婚した父さんで、名前は染葉斗碧(そめはとあ)さん。

すごく優しい人で大好きだった。

当時はね。

私には幼馴染がいて、名前に雪がつくからゆきくんと呼んでいた。

本名は覚えていないけど。

ゆきくんが引っ越した約1年後、父さんは豹変した。

私をベッドに押し倒し、こう言った。

「ねえ初音ちゃん、僕達は運命の番なんだ。相性99%だって!僕と番になろう」

運命に憧れている父さんは私にそう言った。

番というのは、首筋を噛めば成立する。

だから、父さんは無理やり噛もうとしてきた。

「やめて…!こんなことで、おかあさんをうらぎっちゃだめだよ…!!!」

必死に抵抗した。

番というのは一生のもので、解除はできない。

私は怖くなってボロボロと涙をこぼした。

ギリギリのところで、母さんが来てくれて私は助かった。

けれど精神的ダメージは大きく、私は変わってしまった。

運命好きだった私だけど、運命なんて嫌いになった。

男も振り回すようになった。

母さんには気にしていないと笑ったが、ずっと苦しさを抱えて生きてきた。

もう気にしないほうがいいって分かってるのに、ずっと怖くて苦しくて。

思い出したら、涙をながす。

それを雪那が優しくふき取ってくれる。

「そっか…。俺が引っ越した後そんなことがあったんだね…」

「引っ越した…?」

私が疑問に思った言葉を繰り返す。

それから、雪那がふわりと微笑む。

「覚えてない?“僕の名前には雪って文字が入るんだ。いいでしょ”って言った日のこと」

「あ…!」

その言葉で、幼馴染だったゆきくんが彼なのだと気がついた。

『必ず初音ちゃんのところに戻ってくるから…!それまで、待っててね』

あの時にそう言ってくれた“ゆきくん”と雪那の姿が重なる。

あの頃憧れていたゆきくんは、また私の憧れとして現れた。

約束を守ってくれたんだ。

「ねえ、俺たちお似合いだと思わない?だって、初音は運命が嫌いなんだろ?俺達の相性2%だって」

そう言ってくすくすと笑う雪那が、かわいかった。

最初は似合わないと思った。

運命を証明した彼と、運命嫌いの私なんて。

「でも、相性2%ってよくないんじゃない…?」

価値観が合わないということでもあるんじゃないか。

「あはは。嘘だよ?まあ、相性変えたのは本当だけど」

「え?」

「相性ね、100%だったんだ。でも、初音が運命嫌いなの知って2%に変えたんだけど…。なんかダメだったみたい」

相性100%…。

そんなの嘘だよ。

運命は好きだった。

だって御伽話みたいで、本当にあったら素敵だなって。

もう一度運命を信じてみてもいいの?

「もう一度言わせて。…俺は初音が好きなんだ。付き合って」

揺るがない瞳が、私の心を揺さぶる。

私、卑怯だ。

でも、雪那と一緒にに行きたいよ。

そうよくばってもいいですか?