「失礼します」

私は予想通り面談をお願いされ、理事長室に呼ばれた。

おそらく、私は今日で退学になるだろう。

「入りなさい」

その言葉で、私は部屋のドアを開けた。

母さんの隣の空いているところに、私と涼真は座った。

母さんは涼真に驚いているみたいだけど、特に何も言ってこなかった。

「七瀬さん、私達はあなたに聞かなければなりません。この写真はなんですか?」

理事長に出された写真には、フードをかぶった私と涼真が写っていた。

普段なら涼真が答えるのだろうが、今日は何も言わない。

私はゆっくりと口を開いた。

「これは間違いなく私です。いつも23時頃から2時まで、私は出歩いていました。男と遊んでいたのも本当です。すみませんでした…」

隣に座っている母さんは涙を流していた。

きっと、私があの人に影響されたのだと気がついたからなのだろう。

「はぁ…本当ですよ。医学科特進クラス主席の七瀬さんが、まさかそんなことをしていたなんて。隣の男も遊び相手ですか?」

少しきつ言い方に涼真は口を出そうとしたが、私は止めた。

「彼のことをご存知でしょう?マーレ学園の聖生涼真ですよ」

「っ…?!」

それを聞いて、理事長や先生方は驚いた様子を見せた。

意外と有名だから、分かってると思ったんだけどな。

「人が変わるのには理由があるんですよ。彼もそうです。だから、彼のことを悪く言わないでください…!」

私は初めて先生に反抗して、キッとにらんだ。

その様子に、驚く先生方。

そして、涼真は自己紹介をした。

「俺はマーレ学園特進クラスの聖生涼真、初音の元カレです。少なくとも、あなた達より初音を知ってますよ」

涼真も同じく先生をにらんだ。

それに、理事長はため息をついて言った。

「…理由があるにしても、これは許されないことです。七瀬さんは今日をもって退…」

バンッ!

理事長の言葉をさえぎるようにして、ドアが勢いよく開いた。

そこに立っていたのは…。

「先生。退学にするなら、俺もですよ?」

もう2度と会わないと思っていた、雪那だった。

「な、何を言うんだ蜂屋くん…!」

「“許されないこと”をしたら退学になるんですよね〜?」

「それは当たり前だろう」

雪那は怒っている、すぐに分かった。

でも、何に?

「じゃあ、いっこいいですか?俺、デステニーの開発者なんですよ」

「それは知っている…!それがなんだというんだ?!」

何やら焦った様子を見せる理事長。

「入学の時、俺はデステニーをいじって初音先輩との相性を98%にしたんですよ」

ああ、そういうことか。

私も先生も…この場にいる全員が雪那の“罪”を理解しただろう。

そう、彼は…。

「実は初音先輩との本当の相性、2%なんです」

「な、なぜそんなことを…!」

「あれ?俺には理由を聞くのに、初音先輩には聞かないんですね。それって変じゃないですか?」

それを聞いて、悔しそうに黙ってしまった。

それから、雪那は私の前まで来て腕をひっぱる。

「どーぞ、俺も退学にしてください。初音先輩は借りてくんで」

まただ。

雪那が来ると、見えるもの全てがキラキラする。

楽しいと感じてしまう。

でも、それじゃダメなんだ。

「ちょっと…!いい加減にして!!」

理事長室を出る前に、私は雪那の手を振りはらった。

「言ったでしょ?!あたしに関わったら不幸になるって…!みんなみんな不幸になるの!!」

「なんでですか?」

「えっ…?」

雪那の凛とした声が、私を驚かせる。

「俺は一度も不幸になんてなってない。というか、初音を失う以外の不幸なんてない」

真剣にそう言われて、抗えなかった。

私も雪那と生きていたい。

「初音のこと、全部教えて。過去に何があったのか」

「…うん」

気づけば返事をして、雪那に腕をひかれて走っていた。

今度は逃げない。

周りの雑音なんて聞こえない。

ただ楽しくてキラキラする世界が、いいなと感じるだけ。

私、雪那と一緒に行きたい。