電気も着けず、少し薄暗い中私はスマホをいじる。

朝から連絡してくる男なんて、空気読めないバカしかいないけど。

それに返信をしている私もバカだ。

私の名前は七瀬初音(ななせはつね)、国立アウロラ学園に通う高校2年生。

医者の家系である七瀬家の跡継ぎが私。

正直医者になんか興味ないけど、自分のやりたいことが見つかんないんだからしょうがない。

私に“自由”はないんだから。

「よし、そろそろ起きるか」

昨日まで夏休みだったけれど、今日から学校があるから準備をしなきゃいけない。

今日から2学期。

桃色の髪をゆらしながら、私はベッドから降りた。

いつものように顔を洗うため、自分の部屋から出て1階に行く。

階段をおりていると、母さんの姿が見えた。

母さんは赤色に近い桃色の髪にピンをつけていて、瞳の色は茶色。

顔立ちは年齢に合わない幼い感じ。

「あら初音、おはよう。もうご飯はできてるから、準備が終わったら一緒に食べましょ」

「うん…って、今日は忙しくないの?」

母さんは院長をしているから、だいぶ忙しいんだ。

だから、朝なんて7時には病院に行っちゃう。

ちなみに私が起きるのは6時半。

「今日の午前は休んでいいですよ〜って言われたの。午後に手術がいっぱいあるから」

「なるほどね。準備してくるから、待ってて」

私は意外にも母さんが好きだ。

父さんは…5年前に離婚した。

私が荒れ出したのも、そのくらいだった気がする。

なんてね。

私はそんなくだらないことを考えながら、顔を洗った。

顔を上げて、鏡に映る自分の顔を見る。

この時毎日思う、“私の顔って整ってるんだろうな”って。

街を歩けばナンパされる、告白されるのも当たり前。

そこで私は気がついた。

自分の人生がイージーモードだと。

「ほんとバカみたい」

そうつぶやいてから、私は制服に着替えだした。


***


準備が終わり、私は席について朝ごはんを食べ始めた。

「お母さん、今日サラダは?」

「えっ、あ!ごめんね!」

どうやら準備するのをを忘れたみたい。

まあいいけどね。

「ん、大丈夫」

返事をしながら、私はテレビをつけてニュースを見始めた。

『明日から公開の「運命の番」をテーマにした映画。楽しみですね〜』

つけたばかりだったが、私はテレビを消した。

この話題、本当にイラつく。

「初音は本当に運命の番が嫌いね」

「…お母さんもでしょ」

私の言葉に、お母さんは苦笑いした。

運命の番。

それが公になったのは6年前で、きっかけは7年前。

当時の私と同い年の8歳の男の子が、遺伝子相性レベル90%超えの人とマッチングできるアプリを開発した。

そう、まさに天才だ。

それから遺伝子の研究が進み、この世界では相性90%の人と運命の番になれることが分かった。

運命同士が結ばれると、運命の番と言われる。

今では、運命の番のドラマやアニメなんかがあふれている。

でも、きっと現実はそんなに甘くない。

特に遺伝子レベル100%の運命の人なんか、会いたくない。

本能だけに振り回される関係なんて、私は嫌だ。

「ごちそうさま」

少し不機嫌な私をお母さんは心配していたけど、てきとうにあしらった。

「気をつけてね」

お弁当を渡されて、私はカバンにしまう。

「いってきます」

今日も私の地獄が始まる。