特別実習室の良いところは、席が自由に選べるところで、大学の講義室みたいに階段状になっているせいか、先生はあまり上の方の席まで来ない。


私たちはいつも窓際の真ん中くらいに座るけれど、今日は運良く後方の席が空いていたのてそこに腰を下ろした。



イヤホンも無いし、後ろの席にも座れた。
今日は寝ていいよっていう神様からのお告げかもしれない。

頭の中でそんな都合のいい解釈をしながら、一応教科書とノートだけは机の上に広げておいた。



筆箱だけ机の下のスペースに置くと、何かがコツンと当たる音がして机の下を覗き込んだ。




出てきたのは手のひらサイズのオーディオプレーヤー。
上部には小さな液晶画面が付いていて、下部は上下左右の矢印マークが付いている。


「ねぇ葵、忘れ物かな?これ。」


私は目の前に座る葵の肩を叩いて、オーディオプレーヤーを見せた。


「わ!懐かしい。そういうのお姉ちゃん使ってた」


「懐かしいよね。今どきわざわざスマホ以外で音楽聴く人いるんだ。逆にエモいかも」


2人でクスクス笑っていると、先生が入ってきたので慌てて座り直した。





きっと直前の授業で、誰かが私と同じようにこっそり音楽を聴いて授業をやり過ごしたのかな。


そう思うと、このオーディオプレーヤーの持ち主にちょっぴり親近感が湧いた。



そういえば。
ワイヤレスイヤホンは無いけれど、昔使っていた有線のイヤホンがポーチに入れっぱなしだったことを思い出す。

このオーディオプレーヤーも、イヤホンジャックに差し込むタイプだった。



他人の物を勝手に触るのも良くないとは思いながらも、どんな曲が入っているのか知りたい欲に勝てず。

私は有線イヤホンをポーチから取り出しイヤホンジャックに差すと、オーディオプレーヤーの再生ボタンをポチッと押した。