続き『未読のまま、置いていく ― 第六章:信じたいのに』
「正直、友達なんていらないって思ってたくらいだった」
「信じたって、信頼したって、どうせ無駄――わたしも、そう思ってた」
画面の中で返ってきた彼女の言葉は、あまりにも正直で、あまりにもあたたかかった。
それはただの慰めじゃない。わたしの気持ちを「わかる」と言ってくれた人の、ほんとうの声だった。
わたしが震える指で送った、不安と絶望の断片――
「信じても、また裏切られると思う」
その言葉に、彼女はちゃんと、正面から返してくれた。
「でもさ、裏切られるって言ったよね」
「今まで、色々相談に乗ってたけど、わたし、1度でも離れたことある?」
その言葉に、胸がドクンと鳴った。
思い返しても、彼女はいつもそばにいた。
どれだけ私が落ち込んでいても、話せなくても、急に黙ってしまっても、怒りもせず、無理に励ましもしなかった。
ただ、そこに「いてくれた」。
「関わり切ったことある?」
「ないでしょ」
わたしは画面を見つめたまま、息を詰めるようにして何度も読み返した。
その一言一言が、胸の奥の何かをじわじわと溶かしていくようだった。
「いつか裏切るって思ってるなら、そう思えばいいよ」
「でもね、いままで関わりを切る機会なんて、いくらでもあったんだよ」
「それでも切らなかった。それだけは、覚えておいて」
涙が出そうになった。
でも、素直に泣けなかった。
だって――わたしは、まだ信じきれなかった。
こんなにも、まっすぐに想いを返してくれたのに。
こんなにも、言葉を選ばずに本音で言ってくれたのに。
なのに、心のどこかで「でも、いつか終わる」と思ってしまっている自分がいた。
「信じたって、無駄かもしれない」
「信じなければ、傷つかなくて済む」
そんな思考が、体の奥に染みついてしまっていて、手放すのが怖かった。
わたしは、スマホを両手で抱えながら、ゆっくりと膝を抱えた。
涙は出ない。でも、胸が、痛いくらいに苦しかった。
「……こんなに、優しくしてもらってるのに」
「わたしは、またマイナスなことしか考えられない……」
「受け入れられない。信じたいのに、信じきれない」
そんな自分が――
そんな自分が、いちばん嫌いだった。
どうしてこんなにも歪んでしまったんだろう。
どうして「ありがとう」って、まっすぐ言えないんだろう。
どうして、自分を許してあげることさえできないんだろう。
部屋の天井を見上げると、いつの間にか夜になっていた。
光のない空間の中で、わたしはただ、静かに目を閉じる。
ほんの少しでもいい。
誰かを信じてみたいと思う、そんな夜が来ることを願いながら――
