未読のまま、置いていく

続き『未読のまま、置いていく ― 第五章:やさしさの刃』

スマホの画面をぼんやりと見つめていたとき、不意に通知のバイブ音が震えた。
その一瞬、心臓が跳ねる。

まさか…彼から?

指先が震える。画面をのぞきこむと、そこに表示されていたのは、彼ではなかった。

──女の子の友達からのメッセージだった。

「ねえ、元気してる? 最近あんまり話せてないから、気になってた」
「なんかあったら、いつでも話してね」

その言葉は、まるであたたかい布のように胸にふわりと触れて、少しだけ、少しだけ涙がにじみそうになった。

うれしい。
彼女のことは、大切だと思っている。
誰かが気にかけてくれることが、こんなにも心を揺らすなんて。

でも――同時に、怖かった。

このまま、また私が何かを話したら、離れてしまうんじゃないか。
わたしの弱さを見せたら、「めんどくさい」って思われるんじゃないか。
前みたいに、いちばん信じた人に「重い」って言われて、壊れていくんじゃないか。

怖くて、指が止まる。
返信を書こうとしては消して、また書いては消す。

「元気だよ」って嘘をつけば簡単だった。
でも、それを書いた瞬間、きっと自分自身がもっと遠くへ行ってしまいそうで――それも怖かった。

画面の文字入力欄に、指を置いたまま、数分間動けなかった。

苦しい。

ただ、連絡がきただけなのに。
優しい言葉をかけてもらっただけなのに。
胸の奥がギュッと締めつけられて、呼吸が浅くなる。

本当は、話したい。
「怖いんだ」って、「誰かを信じるのが、もう怖いんだ」って。
でも、それを伝える勇気が、今のわたしにはまだなかった。

やっとの思いで、短く返した。

「ありがとう。気にかけてくれてうれしい。大丈夫、なんとかやってるよ」

ほんとうのことは、何ひとつ書けなかった。

だけど、それでも彼女が「そうなんだ、よかった」って返してくれたことで、ほんの少しだけ心が温かくなった。

その優しさが、いつまで隣にいてくれるのか。
またいつか、失う日がくるのか。
その答えはわからないけれど――

今は、ただ、まだつながっていることに感謝していた。

そしてまた、スマホを胸に抱きしめるようにして、静かな夜に目を閉じた。