続き『未読のまま、置いていく ― 第三章:壁の向こうの静かな声』
朝の空気はひんやりと冷たく、ゆっくりと足を踏み出すたびに、胸の中の重さが増していく。
学校の門をくぐると、周りからは楽しそうな声が溢れている。友達同士が笑い合い、冗談を交わしながら歩いている。
わたしはその輪の外側にいる。
まるで透明になったように、そこに存在しているのに、誰からも見えていない気がした。
教室の扉を開けると、いつもの騒がしさが迎えてくれる。
だれかの笑い声、ノートをめくる音、鉛筆の走る音。
でも、わたしの存在はその音にかき消されて、消えていく。
席につき、バッグからスマホを取り出す。
画面にはお気に入りのアニメのワンシーン。
色鮮やかなキャラクターたちの笑顔が、まるで小さな灯りのようにわたしの心を少しだけ照らしてくれた。
わたしは周りの目を気にしながら、こっそりと画面に集中する。
誰かが話しかけてくれたらいいのに。
でも、その願いはどこか遠く、届かない星のようだった。
隣の席の子が友達と笑い合う声が響く。
その笑い声にわたしの心は引き裂かれそうになりながら、でも目を合わせる勇気は出なかった。
「わたしはここにいるのに、誰にも気づかれていない」
その思いが胸にじわじわと広がっていく。
まるで空気のように、ただそこにあるだけの存在。
お昼休み。みんなが楽しそうにお弁当を広げる中、わたしは一人で机に向かい、静かにイヤホンを取り出した。
アニメの音を耳に入れると、少しだけ現実の孤独から逃れられる気がした。
でも、音のある教室の孤独は、音のない部屋の孤独よりもずっと冷たかった。
もし声を出せば、また拒絶される。
だから、わたしは黙っているしかなかった。
誰かがわたしに話しかけてくれるのを、ただ待っている。
「このまま、誰とも話せないまま過ごすのかな」
そう問いかけても、答えは見つからなかった。
わたしの心の中は、静かな波紋が広がる水面のように揺れている。
その日も、わたしはひとりぼっちだった。
