未読のまま、置いていく

 続き『裏切りの傷跡 ― わたしが壊れた音』

 そのメッセージを読んだとき、
 頭が真っ白になって、胸がぎゅっと締めつけられて、
 呼吸の仕方すら、わからなくなった。

 感情じゃなかった。
 ただ、そこに書かれた言葉の「冷たさ」が、わたしを貫いていた。

 「散々人の文句を言っておいて、今さらこちらが対応しないといけないんですか?」

 「優しい言葉をかけたって、それで文句を言われるなら最初から言わないでくれと、あなたたちは言いましたよね?」

 「それなのにその言葉が出るのはおかしいのではないですか?」

 「私は今後、その対応をすることはありません。文句を言われても、自分のことに集中します。」

 正論だった。
 でも、それ以上に――
 わたしの心を切り捨てるために、正論というナイフを突きつけられたようだった。

 わたしの中で、何かが、確かに壊れた。
 小さな音じゃない。
 軋んで、砕けて、もう元に戻らないと思えるほどに。

 でも。
 それでも。
 わたしは、「壊された」なんて思いたくなかった。

 だって、そんなふうに他人のせいにしたくなかったから。
 「壊された」と言ってしまったら、
 わたしは、誰かを責める弱い人間になってしまうような気がして。

 だから、わたしは自分に言い聞かせた。

 「自分が悪いんだ」
 「こんなに言われたのは、自分が至らなかったから」
 「相手の気持ちも、ちゃんと汲めなかったわたしが悪い」

 何度も、何度も、自分に呟いて。
 わたしは、涙が出ないくらいまで、自分を責めた。

 “どうしてわかってもらえなかったんだろう”じゃない。
 “どうしてわたしは、わかってあげられなかったんだろう”って。

 苦しくて、苦しくて、それでも。
 誰にも当たりたくなかった。
 だから全部、わたしの中にしまった。

 でも、それって本当に、
 わたしが“悪い”から、だったのかな?

 続き『裏切りの傷跡 ― 伝えたかったのは、責める言葉じゃなかった』

 「人に言った言葉が取り消せないのと同じように、言葉が狂気になるのは事実です。
 ですが、それが言いたいことを好き勝手言っていい理由にはなりません。
 人の悪いところだけを見るなら、やってることは看護のあの集団と何も変わらないでしょう。

 今回のことで今後関わる気はありませんし、この連絡もこのままブロックさせていただきます。
 謝ってもこちらの気持ちが変わることはないので、連絡することはありません。
 短い間でしたが、お世話になりました。」

 ――そんな言葉が返ってきた。

 わたしが個別で、勇気を出して連絡を送った、その直後に。

 スクリーンの文字は整っていて、言葉の端々は丁寧だった。
 でもその奥にあるものは、突き放す冷たさで満ちていた。

 わたしは、責めたかったわけじゃなかった。
 ただ、伝えたかった。
 自分がどれだけ苦しくて、どれだけ息をすることすら辛かったか――それだけを、わかってほしかっただけ。

 でも、わたしはそれを上手く伝えられなかった。

 だから、こう言われても仕方ないって思った。
 「わたしが悪い」って、思った。

 でも、周りはこう言う。
 「考えすぎだよ」
 「あなたは悪くない」
 「相手が冷たいだけ」

 ――でも、そんなふうに言われたくなかった。

 だって、わたしは本当に、相手を悪く思っていたわけじゃないから。
 ただ、話を聞いてほしかっただけ。
 わたしの心が、もう壊れかけてることを知ってほしかっただけ。

 もしかしたら、相手も傷ついていたのかもしれない。
 自分が責められているように感じたのかもしれない。
 でも――わたしは、責めたかったんじゃない。

 わたしが責めていたのは、
 こんなにも弱くて、
 こんなことを言わせてしまうくらいに、
 人に甘えられない、自分自身だった。

 人と話すとき、いつも頭のどこかで
 「これは重くないかな」
 「嫌われないかな」
 「もうこれで終わりかな」
 そうやって、自分の言葉をフィルターにかけながら話していた。

 だから、今回もきっと、言葉を間違えたのは、わたしだったんだと思った。

 続き『裏切りの傷跡 ― もやもやの正体』

 わたしは、もう二度と会えない人が増えていくことに、慣れたふりをしていた。
 もう話せない人が増えていくたび、心のどこかがちょっとずつ削られていくのを、見ないふりをしていた。

 でも、それは確実に、わたしを壊していった。
 心の奥底から、音もなく、静かに崩れていった。

 ――それは、自業自得だと思った。

 「頼っていいよ」って言われたとき、
 どうしても信じきれなくて、頼らずにいた。
 「困ったら話してね」って言われて、
 “困ってる”って言えなかった。

 だから、優しい言葉に甘えてた自分が嫌いだった。
 期待してしまったこと。
 勝手に「大丈夫かもしれない」って思ってしまったこと。

 信じたあとに壊れるくらいなら、最初から信じなければよかったのに。

 どうして、こんなにも
 もやもやしてしまうんだろう。
 終わったはずの関係に、
 もう言葉すら交わせない相手に、
 わたしの心だけがずっと取り残されている。

 “伝えたかったこと”は、
 “伝えられなかった”まま、
 わたしの中に積もっていって、やがて怒りにも悲しみにもならず、
 ただただ、重たい霧のように、胸に残る。

 こんなもやもや、したくなかった。
 「わかってくれなくていい」って強がるくらいなら、
 最初から、誰にも期待しなければよかったのに。

 だけど――
 それでも、ほんの少しの「優しさ」に、
 救われそうになってしまった、あの一瞬の自分を
 責めることなんて、本当はできない。

 わたしは、
 ただ、信じたかった。
 誰かの優しさを、そのまま受け取りたかった。

 もやもやは、
 言えなかった本音と、
 伝わらなかった気持ちの、残骸なんだと思う

 続き『裏切りの傷跡 ― 忘れられない画面』

 何度も、「もう見ない」って思ったのに。
 何度も、「過去なんて捨てよう」って、口に出してみたのに。

 それでも、わたしの指は、また画面を開いてしまう。

 削除できなかったトーク履歴。
 消せなかったスクリーンショット。
 そこに並ぶ、かつての言葉たち。

 「大丈夫?」
 「無理しなくていいよ」
 「話してくれてありがとう」
 「傷つかないようにサポートするから」
 「辛くなったら、全部ぶつけていい」

 その言葉が、
 今ではもう、何の意味も持たないことくらい、わかってる。
 でも、どうしても――
 捨てられなかった。

 わたしの中にはまだ、
 “あのときは本当に優しかった”っていう記憶が残っていて。
 そこにすがりついてる自分がいる。

 もう、何を送っても、既読はつかない。
 たとえ既読がついたとしても、もう返事なんて来ない。

 それなのに、
 「また話せたら」
 「もう一度だけ、声が聞けたら」
 そんなことを思ってる自分がいる。

 バカみたいだ。
 わたし、本当に馬鹿だ。

 壊れた関係に、まだ縋ってる。
 壊したのは自分かもしれないと責めてるくせに、
 どこかでまだ、「もしかしたら」なんて夢みたいなこと考えてる。

 傷つくってわかってるのに。
 見返せば見返すほど、
 あの優しかった言葉が、今の沈黙に突き刺さるのに。

 それでも、
 “あのときは本当に幸せだった”って、
 そう思ってしまう自分が、どうしようもなくて。

 もう一度だけ。
 ただ、話せたらよかったのに。

 続き『裏切りの傷跡 ― 責めたかったんじゃない』

 わたしは――
 関わってきた人たちに、責めるようなことなんて、した覚えはなかった。

 むしろ、いつも気を遣ってた。
 「この話、重くないかな」
 「しんどくさせてないかな」
 「めんどくさいって思われてないかな」

 本音を言うときでさえ、慎重に、相手を傷つけないように言葉を選んできた。
 言いたいことの半分も言えないことなんて、日常だった。

 それでも、
 また、わかってもらえなかった。

 「そういう言い方、責めてるようにしか聞こえない」
 「自分が被害者みたいに言うの、やめたら?」
 ――そんな言葉で、わたしの気持ちは断ち切られていく。

 きっと、わたしの言い方が悪かった。
 きっと、伝え方が下手すぎた。
 きっと、タイミングが最悪だった。

 だから、壊れた。
 また、わたしが壊したんだ。

 わたしのせいだ。

 そう思うたびに、胸がぎゅっと苦しくなって、
 過去の会話や、送ったメッセージ、タイピングして消した言葉たちがフラッシュバックする。

 未練なんか、残すつもりなかったのに。
 もう、終わった関係なのに。

 それでもまだ、
 「あのとき、違う言い方をしてたら」
 「もう少し早く弱音を見せられていたら」
 そんな“もしも”ばかりが頭に浮かぶ。

 バカだな、って思う。
 自分が壊したくせに、後悔してるなんて。

 “また信じたら、また壊れる”って、もう知ってるのに。
 それでも、
 「あの関係は本物だった」って、信じたかった。

 未練を持ったまま生きてる自分が情けなくて、苦しくて。
 だけど、
 本当は、
 それくらい大切だっただけなんだ。


 ⸻

 続き『裏切りの傷跡 ― 触れてしまった線』

 今回――
 わたしが本当に犯した“罪”は、人を責めたことじゃない。
 きっと、
 友達だった人と、体の関係を持ってしまったこと。

 信頼してた。
 一生仲良くできると思ってた。
 恋人じゃなかったけど、
 “気を許せる人”のひとりだった。

 だから、軽い気持ちだったわけじゃない。
 どこかで、「特別」って思ってた。
 「こんなこともあったね」って、笑って話せる日が来るって、本気で信じてた。

 でも、それはただのわたしの幻想だった。

 キスシーンが出てくるドラマを見ても、
 ラブソングを聞いても、
 ふとした瞬間に思い出すのは――
 彼のことだった。

 もう、連絡も取らない。
 話すことなんて、もう二度とない。
 会うこともない。
 そんなこと、わかってる。

 でも、忘れられなかった。

 「間違えたんだよ」「そんな関係にならなければよかったのに」
 そうやって、何度も自分を責めた。

 でも本音は――
 「あのとき、わたしは寂しかった」
 ただ、それだけだったんだと思う。

 人と繋がっていたかった。
 自分が求められている感覚が欲しかった。
 一瞬でも、**「必要とされてる」**と感じたかった。

 その先に、痛みしか残らないことなんて、
 わかってたはずなのに。

 自分を軽く扱ってしまったこと。
 その代償として、関係が壊れてしまったこと。
 何より、**「もう一度だけでも話したい」**と願ってしまう自分のこと。

 全部、許せなかった。

 続き『裏切りの傷跡 ― 同じ痛みを、また』

 また――
 同じことを繰り返してしまった。

 あのとき、もう二度とこんなことはしないって、
 あれほど後悔して、
 自分を責めて、
 涙を流したはずなのに。

 また、元彼と同じように、
 関係を持ってしまった。

 その瞬間は、
 「誰かに必要とされている気がした」
 「わたしでも、抱きしめてもらえるんだって思った」

 でも、それはほんの一時の錯覚だった。

 現実に戻ったとき、
 真っ先に胸に押し寄せてきたのは、**“後悔”**だった。

 どうしてまた…
 どうして、わたしは同じ傷を自分につけたんだろう。

 「自分は変われる」
 そう信じてたのに。
 強くなりたくて、ちゃんと前を向きたくて、
 それでも、心のどこかで“寂しさ”に勝てなかった。

 寂しさって、こんなにも大きな力を持つんだね。
 人の判断を狂わせて、
 理性を眠らせて、
 後から深く深く、自分を傷つけさせる。

 わたしは、自分を許せなかった。

 「弱い」
 「愚か」
 「学んでない」
 そんな言葉が、自分の頭の中で何度も響いた。

 でもきっと――
 ほんとは、
 誰かにわたしの心を、そっと包んでほしかっただけ。

 愛されたかった。
 否定されずに、存在を認められたかった。

 間違いだったかもしれない。
 でも、
 その時のわたしは、
 それ以外の選択肢を知らなかっただけなんだ。