『未読のまま、置いていく ― 第1章:私の声は、未読のまま』
わたしが最後に彼からもらった言葉は、「自分からは連絡しないって、言ったはず」だった。
彼は、昔からそういう人だった。
無邪気で、軽やかで、自分の世界を守ることが上手な人。
わたしは、そんな彼の世界に入れてもらえたことが嬉しかった。
毎日話せるわけじゃない。でも、たまに笑ってくれて、たまにわたしの話を聞いてくれて。
それだけで、胸がぎゅうってなるくらい、あったかかった。
だけど、あるときから、違和感がじわじわと心ににじんでいった。
彼はこう言った。
「考えてることを話さないのは、話したいと思っていないからでしょ」
「女子が怖いんじゃなくて、女子がめんどくさい、嫌いが正解だよ」
「連絡をしないのは、自分の気分と都合の問題」
「既読をつけたら返信しなきゃいけない。それが面倒だから未読にしてる」
その言葉たちは、どれも刺さって、わたしの中に残った。
わたしは、ただ、彼に理解してほしかった。
わたしが「すぐに関係を終わらせようとする」のは、怖いから。
捨てられるくらいなら、自分から離れようとする防衛本能で。
「話せない」のは、伝えたら壊れるって、信じてるから。
でも彼は、そんなわたしのことを、「面倒」と言った。
言葉の温度は冷たくて、連絡の通知も来なくなって、わたしはひとりになった。
わたしが、彼に望んでいたのは、「理解」じゃない。
ただ、そばにいてほしかった。
「今、返信できないけど、気にしてるよ」
その一言さえあれば、きっと、わたしは安心できたのに。
わたしは、彼を責めたいんじゃない。
でも、彼にとって、わたしの存在が「めんどくさい」に変わった瞬間を、何度も思い出す。
もしまた会えたとしても、彼はきっと、笑って言うんだろう。
「言ったよね? 俺、連絡とかまめじゃないし、自分からはしないって」
わたしの声は、未読のまま、彼の中で消えていく。
