晴が、私の前にしゃがむ。
目線が合う。
「後悔は」
一瞬、考える。
殴ったこと。
倒したこと。
怖くなかったわけじゃない。
でも。
「……ない」
そう答えたら、
晴はほんの一瞬だけ、目を細めた。
「じゃあ、それでいい」
それ以上、何も言わなかった。
私はベンチに深く座り直して、空を見上げる。
さっきと同じ夜なのに、少し違って見える。
私、戻れないのかな。
戦う前の自分には。
そう思って、
でもすぐに、別の考えが浮かぶ。
戻らなくていいのかも。
怖さを知ったまま。
躊躇も、迷いも、全部抱えたまま。
それでも、立つ。
「……ねえ」
小さく言うと、晴がこっちを見る。
「私さ」
言葉を選ぶ。
「次、また同じことがあっても……
多分、逃げない」
晴は少しだけ息を吐いた。
「だろうな」
否定しない。
止めもしない。
ただ、隣に立つ前提でいる。
それが、なんだか嬉しくて。
私は、もう一度深呼吸した。


