晴の声は、いつもより少しだけ柔らかい。
私は、息を整えながら、空を見上げた。
路地裏の細い隙間から、夜の空が見える。
一ヶ月。
短くて、足りなくて。
それでも。
私は、立って。
走って。
倒して。
――最後まで、立ってた。
体は限界なのに、
胸の奥だけが、静かに熱かった。
全部が終わったあとも、私はしばらく動けなかった。
立ち上がろうとして、
腹の奥がずきっとして、息が詰まる。
「……っ」
声は出さなかったつもりなのに、晴はすぐ気づいた。
「無理すんな」
低い声。
近づいてくる気配。
「平気……」
そう言おうとして、途中でやめた。
平気じゃないって、体が先に知ってた。
晴は何も言わずに、私の前にしゃがむ。
「……乗れ」
「え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「歩けないだろ」
「歩けるし……」
そう言いかけた瞬間、また腹に鈍い痛みが走る。
「ほら」
晴の背中が、すぐ目の前にある。
近い。
思ったより、ずっと。
「……小さいくせに」
気づいたら、そんなことを言っていた。
晴は少しだけ肩を揺らして、
笑った……気がした。
「るせぇ」
私は渋々、腕を回す。
背中に触れた瞬間、妙に安心してしまって、悔しくなる。


