――来る。
その瞬間、拳が振るわれた。
当たるはずだった衝撃が、頬の横をすり抜ける。
次。
また次。
近い。速い。
でも、当たらない。
受け流す。
避ける。
触れさせない。
今はまだ、反撃しない。
体力を消耗しないよう、必要最低限の動きで、ひたすら避ける。
「……ちょろちょろしやがって」
息が荒くなるのは、相手の方だった。
何発目かを躱したとき、
ふと、思った。
……いつまで?
このままじゃ、終わらない。
足が、自然と前に出た。
踏み込む。
拳を握る。
狙いは、鳩尾。
当てれば、倒せる。
分かってる。
分かってるのに。
人を……傷つける
その考えが、腕を止めた。
拳が、届く直前で止まる。
一瞬。
本当に、一瞬。
「……は?」
次の瞬間、強烈な一撃が腹に入った。
息が、詰まる。
視界が揺れる。
逃げきれない。
――まずい。
体が後ろによろけた。
そのとき。
横から影が割り込んだ。
相手の腕が弾かれる。
真正面じゃない。
決定打を入れない。
ただ流れを切る。
「……下がれ」


