私は、前に出た。
自分の足で。
自分の意思で。
「……いくよ」
その一言で、全部が動き出した。
一人、二人……
違う。
その奥にも、さらに。
晴の肩が、わずかに強張るのが分かった。
「……多い」
ほとんど息だけで作った声。
私の耳元に、かすかに届く。
「聞いてた人数より……明らかに多い。
しかも、慣れてる」
相手の立ち方を、晴は一瞬で見ていた。
無駄に騒がない。
視線がぶれない。
逃げ道を、最初から塞ぐ位置取り。
「六花」
呼ばれた名前も、音にならないほど小さい。
「今日は……引け。
相手、思ってたレベルじゃない」
その言葉で、胸の奥がぎゅっと縮む。
怖い。
確かに、怖い。
でも。
私は、一歩前に出ていた。
「……だめ」
自分でも驚くほど、声を殺した。
喉を閉じて、空気だけで作る。
「ここで止まったら……
一生、止まる」
晴が私の腕を掴む。
今度は、さっきより少しだけ強く。
「突っ走るな。
それは覚悟じゃない」
「違う」
私は、首を振る。
「考えないって……言ったでしょ」
晴の動きが、一瞬止まった。
「今、考えたら……
私、動けなくなる」


