漂う花は、還り咲く


路地裏は、思っていたより狭かった。

壁に挟まれた空間に、湿った空気が溜まっている。


「誰だ」

奥から声がする。

姿はまだ見えないのに、その一言だけで背筋が冷えた。

晴が、ほんの少しだけ前に出る。


「下がってろ」

「……嫌だ」


私の声は、自分でも驚くほどはっきりしていた。

晴が振り返る。

その目が、わずかに見開かれる。


「ここまで来て、逃げるなら――」


言葉を探す前に、相手が姿を現した。

数人分の足音。

数の差は、すぐに分かる。

喉が鳴る。
指先が、震える。

――怖い。

でも。

逃げたい、より先に。
逃げたくない、が来た。

「六花」

晴の声が、すぐ隣で聞こえる。

「考えるな、だよね」

私がそう言うと、晴は小さく頷いた。

一ヶ月。
足りない時間。
それでも。