漂う花は、還り咲く



「……晴って、こんなに小さかったんだ」

「言うな!!」

「可愛いじゃん」

「可愛いは言うな!!」


肩をすくめながら言い返す晴に、さっきまでの重たい空気は、もうなかった。

でも。

「冗談はここまでだ」

凛月の声で、空気が切り替わる。

「外に出たら、遊びじゃねぇ」

その一言で、背筋が伸びた。


さっきまで笑っていたはずなのに、
心臓の音が、はっきり聞こえ始めた。

――怖い。


でも

「行くぞ」

「……うん」


ここまできた。ここで立ち止まってどうするの。


「六花、頑張れよ」

「逃げてもいいからな」

「怖くなったら晴を盾にしろ」


「成長、見せつけてやれ」

上から、結翔、千隼、伊織、凛月。


「うん。いってきます!」





路地裏へ向かう足取りは、重い。


本当に私、大丈夫かな。
今から人を痛めつけるの?
たった1ヶ月で強くなれたわけがない。

怖いよ…


「おい六花。六花!」


「晴…?」

急に立ち止まった晴に、両肩を掴まれる。


「痛いよ。どうしたの?」

「何も考えるな。」


晴の真っ直ぐな目を見て、我に返った。


晴の手は思ったよりも力強くて、でも乱暴じゃなかった。

逃げ道を塞ぐみたいに、しっかりとそこにある。


「……何も考えるなって?」


私が聞き返すと、晴は一瞬だけ視線を逸らした。


「考え始めると、足が止まるだろ。
怖いとか、無理だとか……全部だ」


「でも……」


言いかけた言葉は、喉の奥で絡まって出てこなかった。

一ヶ月。
その短さが、何度も頭の中で反芻される。


晴は小さく息を吐いて、私の肩から手を離した。


「強くなったかどうかなんて、今はどうでもいい」


路地裏の奥から、乾いた笑い声が微かに聞こえる。

逃げ場のない音だった。


「六花は――立ってる。それで十分だ」


その言葉が、胸の奥に落ちる。

じんわりと、でも確かに。


「立ってるだけじゃ、勝てないよ」

そう言うと、晴はほんの少しだけ笑った。


「立ってなきゃ、始まんない」

そのまま、晴は一歩前に出る。

私を庇うでも、引っ張るでもなく、隣に並ぶ形で。


足はまだ重い。
心臓も、うるさいくらいに鳴っている。

それでも――

私は、もう一歩踏み出した。