相手の拳を手のひらで受けて、勢いを横に流す特訓。
そのときは、下っぱさんたちには本気で拳を振ってもらった。
骨と骨がぶつかる痛みに耐えながら、ほんのわずかな距離で勢いを殺す。
いろいろな練習をしたけど、これは苦手なもののトップ3に入るレベル。
「とりあえず、これ着て。」
ぽいっと結翔に渡されたのは、真っ黒のパーカーとズボンだった。
「これ?」
「女と分かったら、喧嘩にならねぇ。最悪、連れ込まれるぞ。」
なるほど…。
「それに、海月は顔を見られないように喧嘩する。」
なんのためにそんなこと…
「海月には、いろんな事情を抱えたやつがいる。
居場所を求めたやつも、ただ喧嘩がしたいやつも。俺らに憧れて入ってきたやつもいる。
みんながみんな、悪ガキになりたいわけじゃねぇんだ。だから、俺らはみんなの未来を守りたい。海月にいたから、お前は外れ物なんだって、言われてほしくねぇ。」
「海月は、薬やったり誰彼構わず殴ったり、そんなことするような集団じゃない。でも、外から見たら、暴走族に良いも悪いもないだろ?
だから、素性を隠す。顔も名前も、海月として出さない。その条件で、外で海月を名乗っていいことになってる。」
普段あまり自分から喋ることのない凛月と千隼が、こんなにも真剣に話してる。
あぁ、みんな本気で海月と向き合ってるんだ。
「わかった。着替えてくるね。」
にこっと微笑んでそう言うと、着替えられる部屋に案内してもらった。


