そこから先は、笑い声が途切れる気配すらなかった。
カードゲームの続きだの、しょうもない口喧嘩だの、
お菓子の最後の一個を巡る戦争だの。
その全部が、なぜかやたら懐かしくて、楽しくて。
気づけば外は真っ暗で、名残惜しさを感じながら私は帰ることにした。
「また明日なー!」
「明日バイトだから来れないかも〜」
「え、六花バイトしてんの? なに?」
そりゃ、一人暮らしなんだからお金はいるよ。
「明日はカフェー!」
「カフェ!? おま、絶対チョコとかつまみ食いしてんだろ」
「しないし! してないし!」
失礼すぎない!?
「じゃあ終わったら来いよー!」
「来れたらねー!」
そんなやり取りをしてたら、いつの間にか隣に結翔が来ていて、昨日と同じヘルメットをひょいっと差し出してきた。
昨日暗くて気づいてなかったけど、これ…完全に女性用じゃん。
色とか形とか、大きさとか。
なんでこんなの持ってるんだろう。いや、彼女とかいるのかもしれないし、おかしくはないか。
「六花?」
「んー?あ、荷物持ってきてくれたの?ありがとう!」
バイクにまたがった結翔の後ろに乗ると、さっきまでの騒がしい声が嘘みたいに一瞬で遠ざかった。
エンジンが小さく震えて、そのまま静かにゆっくり道路へ出る。
夜は思っていたよりもあたたかくて、街灯の光がぽつぽつと路面に落ちていく。
大きな音も、誰かの叫び声もない。
ただ、春の匂いと、バイクの風だけ。
結翔の背中に軽く手を添える。
ちょっとだけ掴んでるくらいの距離がちょうどよくて、なんか安心する。
「寒くねぇか」
前を向いたまま、短くそう言われる。
「平気。……気持ちいい」
返した声は、たぶん自分でも驚くくらい自然で、ただそのままの気持ちだった。
バイクはゆっくり角を曲がって、海沿いの道に出る。
小さく波の音が聞こえて、夜の空気が少し柔らかくなる。
バイクって、もっと怖いものだと思ってたのに。
――まだ耳の奥で、みんなの笑い声が響いている。
お風呂から上がって、鏡の前でタオルをかぶったまま肩を回してみる。
「……いったぁ……」
小さく呻き声が漏れる。
湿布を取り出して腰と太ももにぺたり。
冷たい感触に身震いしながら、鏡越しに自分の顔を見て苦笑する。
「昨日までこんなこと、想像もしてなかったのになぁ」
パジャマに着替えて布団に潜り込むと、全身の筋肉がじんわり抗議してくる。


