漂う花は、還り咲く

部屋のドアを開けて、鞄をぽんと床に放る。

カーディガンを脱いで、冷蔵庫から麦茶を取り出して、ちょっとだけ喉を潤す。

「ふぅ……」


ワンルームの、静かな部屋。

誰もいないのが当たり前になってから、ずいぶん経った。

必要なものだけ小さなバッグに放り込む。

結翔、待ってるよね……なんか、落ち着かないな。

部屋を出て、ふたたび玄関前へ向かう。

結翔は、バイクのハンドルに手をかけたまま、こっちを見て少しだけ顎を上げた。

「終わった?」

「うん。待たせてごめん」

「別に。……じゃあ、行くか」

「うん」

歩き出した結翔の隣を、小さく駆けて追いかける。

今度はもう、後ろに乗ったりはしない。ただ並んで歩くだけ。

それでも、道に落ちる二人分の影が妙にくすぐったい。


歩きながら少しだけ間があって、結翔がふと口を開いた。

「親御さんは、心配してないの?」


その言葉にハッとして、私は少しだけ目を伏せた。


言いにくいことだし、普段はあまり考えたくもない話。


でも、今は彼にだけは話せそうな気がした。


「ううん。親はいないんだ。小さい頃から施設で育ってて」

ちょっとだけ声が震えたけど、言葉は止めなかった。


「今は補助もらいながら、一人暮らししてる」


「……そっか」

結翔は静かにそう言うと、前を向いて歩き続けた。


「昔から、人に頼るの苦手で」

「うん」

「でも、今日迎えに来てくれてありがとう。めちゃくちゃ助かった」

「別に、気にすんな」