「……六花、ビリ近くない?」
「え、マジで筋肉痛なんだ……」
「ていうか六花って、こんな顔もするんだな」
その言葉が、遠くで聞こえた。
……いい。どう思われたっていい。
昨日の手合わせを思い出す。
あの空気。あの視線。
そして、帰り道。
後ろから感じた結翔の背中のあたたかさ。
止まりたくなかった。
誰かの期待とか、評価とか、そういうのじゃなくて――
私自身が、今、負けたくなかった。
あと一周。足が止まりそうになる。
でも止まらない。止まらせない。
呼吸は荒くて、汗で視界がにじんで、喉が焼ける。
それでも、一歩一歩を前に運んだ。
「……やばい、これ本気でがんばってる六花じゃん」
「なんか、意外と……熱いんだな」
そんな声が、後ろから聞こえる。
私は、ただ前だけを見ていた。
――あと半周
脚はガクガク。腹筋はちょっと揺れるだけでズキンと痛い。
それでも、あと少し。あと少しだけ。
最後の直線、白線が見えてきた。
……いける
歯を食いしばって、最後の一歩を踏み出す。
ゴールした瞬間、視界がふらついた。


