ネックレス


 香坂鈴奈は、東京の四谷にある某大学に通っている。今は3年生の春。

 大学には30分で通える所にある、1LDKのアパートに、一人暮らししている。

 朝7時に目覚まし時計が鳴る。
鈴奈は薄目を開けてアラーム音を止めたが、起きる気は全くなく、うとうとと微睡む時間を楽しんでいた。

10分毎のスヌーズのアラーム音が4回目に鳴った時に、諦めたようにベッドから起きるのが日課。

朝の寝起きの悪さから分かるようにズボラな人間の様にも思えるが、起きてからの鈴奈は手際が良かった。

洗面所に向かい顔を洗い、朝食のトーストと、付け合わせのウィンナーと目玉焼きを作り食べた。

食後に入れたコーヒーを飲み、一息ついて、
『そうだわ!』
『今日は講義終わりにデートだわ。先週の誕生日に彼から貰ったネックレスを付けて行こう!』と鈴奈は思った。

そのネックレスは、ハート型のペンダントトップに小さなダイヤモンド?(だぶんそうだと思う)が一つ付いている可愛いネックレスだ。

『そうだわ! 花柄のワンピースにあのネックレスは、きっと似合うわ!』と想像して鈴奈は、ひとり満足の笑みを浮かべていた。

 お気に入りの花柄のワンピースを身につけ、次はネックレスをと思い、仕舞っておいた机の引き出しを開けたが、そこにあるはずのネックレスが見当たらない……。

焦った鈴奈は、引き出しの中身を全部床の上に引っ繰り返してみた。

床には有りと有らゆる物が散らばった。
シャーペンにボールペン、色鮮やかなマーカーなどの文房具の数々、口紅やマスカラといった化粧品、彼女の長い髪に着ける可愛らしい髪飾り、などなど。

その他には、女の子の部屋にはあまり無さそうなコンドームまでもが、床に散らばった。

引き出し以外にも有りそうな机の上や、テーブル、化粧品が雑に置かれてある所など探したが、見つからない……。

『何処にいったのよ……』
ちょつとヤケになりながら、ひとり部屋で呟いた。そして深い溜息をひとつついた。

ふたつ目の溜息の後、鈴奈はネックレス探しを諦めた。

気が付けば、出掛ける時間が迫っていた。
鈴奈は急いで準備をして、駅に向かった。