鈴奈は急いで店内に戻り、
「颯太、ゴメン!用事が出来てしまった」

そそくさと帰り支度をする鈴奈に、
「何だよ、用事って、まさか男じゃないよな」

『バレた?』いやいやそんな事はないと思いながら、やや逆ギレ気味に言った。

「そんな訳ないでしょ!」

「用事は用事よ」

2人分のピッツァとコーヒー代をテーブルに置いて、鈴奈は店を出て行った。

鈴奈は、朝吹蓮の待っているお店にタクシーで向かった。

 蓮とは、大学の合コンで知り合った。
一つ年下で、顔はイケメン、性格はちょっとチャラチャラした所があるが、その顔に惚れて、
合コンその日に2人は、合コン仲間達に見つからない様にそっと抜け出し、ホテルに行ってしまった仲である。

そういう関係は、ほとんどが一夜限りで終わるのが多いが、鈴奈と蓮は、今も続いている。

『わたしが?』
『まさか、ダブルブッキングするなんて』

タクシーの中で、動揺している自分自身の気持ちを落ち着かせて、この場を上手く切り抜けなければならないと、考えを巡らせていた。

 蓮の待っているお店に入るなり、彼を見つけて飛んで行き、
彼の傍らに座り、腕を取り、ちょっと胸が当たるか当たらないか位の感じで、

「ゴメンネ、ゴメンネ」と真顔で。

ここで、下手な言い訳をするより、誤り倒すことにしたのだった。

「もう……、いいよ」

「コンビニで食料買い込んで、いつもの所へ行こうぜ」と言って、コーヒー代なレシートを持ってレジに向かった。

その後を鈴奈は着いて行った。

『一件落着』と鈴奈は、彼の背中を見つめながら、心の中で笑みを浮かべていた。