「わたくしの負けよ。煮るなり焼くなり好きにして」
自分を殺すのが血の繋がりがある人ではなく見ず知らずの彼だということがせめてもの救いだ。彼の表情だって変えられた。気分がいい。最期の最期で自分を少し好きになれた。
「とんだ誕生日プレゼントね」
乾いた笑みが零れ落ちた。それから首を切り落としやすいように下を向く。
だが、剣が振り下ろされることはなかった。
「……何をどう勘違いしているのかは知らんが、端からお前を殺す気などないぞ」
「は……?」
一瞬何を言われているのか理解できなかった。
名前も名乗らない、皇族を倒そうとした人間を殺さないなど、気でも触れたのだろうか。
「せっかく私に並ぶ魔力を持ち合わせる人間に出会えたのだ。人体実験に使ったり国のエネルギー源にしたり人間兵器に改造したりといくらでも使い道はあるだろう」
人のことをただの道具としか見ていないような発言だ。父もそうだった。上に立つ人間はみなそうであらねばならない。そうではないと国は守れない。情など捨て置けと何度叩き込まれたことか。
「だから最初はそうしようと思ったのだが……、気が変わった」
彼はしゃがみ込み彼女と目線を合わせた。頬に手を添え、自身の方へと引き寄せる。
「私の妻になるといい。お前が気に入った」
彼がそう言い放った瞬間、彼女は気を失った。



