『甘水・・・縫を返せ』
静かに憤るお兄に、朱羅はヘラリと笑った。
「それはできないなぁ。もう恋愛応援制度の申請は出したし・・・ね、大丈夫だよ、半年だから。・・・じゃあ失礼するね~」
『おい、待っ・・・』
ボタンを押す直前、朱羅が少しだけ、冷めた笑みを浮かべていた。

「さぁ、終わったね。これからはもう外に出れないけど・・・我慢してね?」
「・・・約束を守ってくれるなら、なんでもする」
「お、ほんと?嬉しいな。じゃあいっぱい愉しいことしよーね」
さっきから笑みの絶えない人だ、そんな仮面をずっとつけてきたんだろう。
「・・・ところで、朱羅、学校は?」
「がっこー?・・・あぁ、学校ね。水雲(もずく)高校だよ」
「そうじゃなくて」
水雲高校は、血凍霞のみが通う高校で、共学なのに男子しかいない不良校だ。
総長である彼も例外ではないことは分かってるんだけど。
「行かないの?」
「・・・あー・・・っとねぇ、いま停学中だから」
「て、停学?」
そんな、不良校だし、ちょっとした喧嘩じゃ停学にはならないはずだ。
「なんで、そんな・・・仲間でも喧嘩するの?」
「う~ん、血凍霞(うち)は仲間意識とか無いんだよねぇ。乱闘とか、ほかのとことぶつかる時は、固まって戦うけど・・・普段から一緒にいるとかはあまりないかも。下っ端とかはとくに、乱闘用の臨時メンバー状態かな。だから、同じレベルの奴らはところかまわず喧嘩する」
・・・蒼翼狼ではありえないことだ。
ほんとに私はいい人たちに囲まれていたんだと実感する。
「ってことは・・・朱羅はどのレベルの人と喧嘩したの?」
総長なんだから、同レベルはいないはず。
副総長とか幹部とかかな・・・?
「えっとね、わかんない。でも多分違う。なんか総長の座狙ってる奴らから仕掛けられるのはいつもだし・・・反撃したらもちろん勝っちゃうじゃん?」
俺総長だし、と朱羅が傷ひとつない顔で笑う。
「だから俺が一方的に殺ったみたいになるんだよね。それで、いまは停学中。避けようがなくない?いきなり襲われたら反撃しちゃうのが人間なんだから」
つまり、不本意ながら自己防衛で相手をフルボッコにしてしまい、必然的な誤解で停学になると。
う~ん・・・フォローできない。
「そろそろ停学期間明けるんだけどさぁ、またすぐに停学なるし?あと少しで退学になるからね。そしたら1日中一緒にいれるよ」