『帰れない?俺が迎えに行くからいる場所を教えろ。どこかわからないなら近くにあるものとか・・・電柱に住所も書いて──』
「違うんだってば・・・!なんでわかってくれないの、私は本気でっ、これは小さい子の悪戯でも家出でもないの!」
自分が悪いし、自分勝手なこと言ってるのは分かるのに、もどかしくて涙が出てくる。
計算通りのはずだった。
『セリフ』を言えば私は、大好きな兄たちを守ろうと自己犠牲に走る、健気なヒロイン。
そうすればみんな鬱陶しくなって、どうでもよくなって、諦めてくれるって・・・。
新しい強い姫を迎えて、その半年間だけ私はみんなを守った気になれる。
私が人質になってみんなを守れると思えたのも、その計画が頭をよぎったから。
その、はずだったのに。
なんて言ったら伝わるんだろう。
『縫、俺は縫を泣かせたいわけじゃ・・・』
「ねぇ」
まったく終わらない私たちの会話にしびれを切らしたのか、画面に朱羅が映ってきた。
「『いつまで茶番続けてんの』~ってセリフ準備してたんだけど・・・俺のお姫様泣かせるとかどういうつもり?」
『は・・・お前、血凍霞・・・甘水じゃ、なんで縫、と・・・』
動揺しているのか、桜ちゃんの声が震えているし、それを聞いたお兄もが画面に映ってくる。
その間に朱羅が笑いながら涙を拭ってくれて、思わず頬が赤くなった。
いい年して泣くなんて恥ずかしい・・・。
「縫ちゃん?俺が説明していい?」
「ん・・・いいの?」
「うん、任せてね。・・・俺ね、ずっと縫ちゃんが欲しいかったんだ。で、縫ちゃんが俺のお姫様になってくれるなら、蒼翼狼は害さないって条件出したら、OKしてくれたの~。じゃあ実質俺のモノだよね?」
なんかちょっと事実から離れてる気もするけど、分かりやすければいいか。
『はぁ・・・?お前、なに言ってんだよ。縫は俺らが負けるなんて思うわけねーだろ』
お兄がこちらを睨みながら言って、人生で初めてお兄に睨まれた私は、思わず固まってしまった。
『害され』ても蒼翼狼は『負けない』ってこと、姫は分かってるからわざわざ人質になったり『しない』っていうことだろう。
でもね、お兄?
1人1人の強さは蒼翼狼が上だとしても・・・人数的に、蒼翼路に勝ち目は無いんだよ?
1人ずつ相手できるなら勝てるかもしれないけど、一気にかかってこられるし、血凍霞も強いんだから。
「あ、初く~ん」
ニコニコと、人を苛つかせる笑みを浮かべながら朱羅が手を振る。