人質になったら敵総長に執着監禁されてます・・・?

「じゃ、じゃあ・・・いきます」
「あは、喋り方戻ってるよ。最初は俺のこと映さなくていいからね」
「う、うん・・・」
お兄にビデオ通話をかけると、ワンコールで繋がった。
映ったのは、汗だくのお兄と、揺れながら少しずつ変わっていく背景。
どうやら走っているようだ。
「も、もしもしお兄?」
『縫か⁉どこにいる?大丈夫なのか⁉』
「お兄、落ち着いて」
『いつもならもうアジトに来てる時間だぞ?それを1時間以上すぎてる!みんな縫のこと探してて・・・』
「お兄・・・深呼吸。一回しか言わないからちゃんと聞いて」
興奮状態のお兄を落ち着かせ、私も深呼吸をしてからもう一度口を開く。
「お兄、私はしばらくお兄のところにもみんなのところにも帰れない。でも心配しないで?それに、絶対に迎えに来ないで」
『ぬ、縫?何言ってる?今どこにいるんだ?そこは室内だろ?学校じゃないし・・・』
「部屋だよ。お兄の知らないところにいる。私ね、決めたの。私がいるべきはここって気づいたんだよ」
ずっと守り続けてくれたみんなを裏切るようで心苦しいが、突き放しような感じで言わなければ、お兄には通じないだろう。
「ずっと守ってくれてありがとう。今度は私がみんなを守るね!半年間はみんなのこと守れる・・・ふふ」
思わず笑みを漏らすと、お兄が困惑したように走るのを止めた。
『縫・・・今日なんかおかしいぞ?いきなり電話してきたかと思えば帰れないって・・・心配はするだろ、兄妹だぞ?それに守る?半年?縫が俺たちを?俺たちはそんな頼りなく見えるのか?』
・・・うん、今思えば展開はやすぎるよね。
クラスメイトに攫われて、敵の総長の人質になって、ちゃっかり順応して、兄総長に電話して、迎えに来るなと笑う・・・。
ちょっとハイスピードでやりすぎちゃったかな。
でも私もすごいと思う。
だって敵総長に捕まってるのにもう友達みたいな距離感になっちゃってるし。
「い、いいの、私のことは半年間忘れてもらって、その間は安心して・・・」
『忘れるわけないだろ』
呆れたようなツッコミで、思わず面倒くさそうな顔になってしまった。
「お兄・・・桜ちゃんいる?」
『桜貴?いるぞ』
「代って」
一緒に走っていたのか、長く束ねてある髪を乱している男の人が映る。
この人は蒼翼狼の副総長である終夜(しゅうや)桜貴(おうき)、通称(おう)ちゃん。
『縫?俺だ、いい子だから帰ってこい』
「だから桜ちゃん!・・・っはぁ、あのね、ほんとに違うの。私は帰れないの」