頭が痛い。
まぶたが重い。
身体がうまく動かせない。
違和感を覚えて、無理矢理目を開ける。
うっすらとぼんやり霞んでいる視界で意識を取り戻すと。
「はい、御苦労。・・・なに、その目」
「いえ・・・なんでもありません」
知らない声と、知っている声が会話をしている。
見たことない天井で、一気に目が冴えた。
起き上がろうとすると、めまいがして柔らかいものに逆戻り。
・・・ベッドに寝かされてるのか。
「あ、お姫様がお目覚めみたいだ。さっさと帰りな」
「・・・はい・・・」
あれ・・・この声、澪茉・・・?
なんで・・・そもそもなんで私は。
寝てた?
なんで、たしか澪茉と帰ってて、澪茉が、ハンカチ、を・・・。
・・・まさか、澪茉が?
だとしたら、あのハンカチは睡眠薬が・・・。
「おはよう、(ティア)・・・いや、縫ちゃん?」
「私の名前・・・知っ、あなたは、誰?」
「ふふ、訊きたいことはたくさんだよね?教えてあげるけど・・・でもきみに当ててもらうのもいいなぁ。俺は甘水(うすい)朱羅(しゅら)
「・・・っ、血凍霞(けつとうか)・・・?」
「そう、当たり!さすがだね、守られてるだけじゃない。いや、守りきれてないのかな。俺が、血凍霞の総長」
蒼翼狼(そうよくろう)の敵・・・」
「そうそう、縫ちゃんのお兄ちゃんの、直接的な敵だよ」
血凍霞は、私が所属している蒼翼狼の敵だ。
なんで血凍霞の総長がココに・・・いや、なんで私がココに・・・。
「縫ちゃんは捕まったんだよ。可愛がってたあの澪茉にね」
「・・・そう。それで、蒼翼狼になにを要求するんですか?」
「・・・あれ、冷静だね。きみが欲しいなぁって思ってただけ。きみがここに居続けてくれるなら、血凍霞も、俺個人も、蒼翼狼を害することはしないって誓おう。ただ、きみが抜け出しちゃったら、蒼翼狼を徹底的につぶす」
目が覚めたばっかりの人間には、あまりにも濃すぎる内容だ。
「それは・・・人質、ってことですか?」
「うーん、そうだね、そうしよう。今日から君は人質だ!」
嬉しそうに中華風のピアスを揺らす彼に、警戒心が絶えない。
垂れ眉に吊り目という見るからに危ない容姿をした美青年は、ニタリと笑んだ。
それには『無駄な抵抗はするな』という警告と──しっとりとした甘さが含まれていた。