「勉強めんどくさいなぁ」
現実逃避するようにベッドに向かうと、ズボンの中のスマホがぶるると震えた。
【青春満喫同好会 でグループ通話が開始されました】
青春満喫同好会というのは、私と柚音、遥樹くんの3人のLINEグループの名前である。
命名主は柚音である。
『なんか絶妙にダサい』と遥樹くんは文句を垂れていたが、柚音に圧をかけられてLINEグループの名前が決まった。
参加ボタンを押すと、デスクに座っている柚音の姿が映った。
『よかった出てくれた。これからどうするか決めたくて電話かけたの』
マイメロディーがプリントされたピンク色のTシャツを着た柚音がふんわりと笑みを浮かべる。
「遥樹くんは?」
『さっきからアットメンションしてるけど来ないんだよね。お風呂でも入ってるのかな』
「さあ。あ、今日の晩ごはん何だった?」
話題がなくなりそうだったので、私はとっさに思いついたことを口に出した。
『醤油ラーメン。澄羽っちは?』
「私は麻婆豆腐。ラーメンいいなぁ」
『いいでしょー。』
顎をぴんと伸ばした親指と人差し指で挟みながら、柚音はニッと笑みを浮かべた。
『麺茹でてスープ作って、野菜乗せただけなんだけどね。自分で作ったからお母さんがつくるのよりはおいしくないけど』
ほとんど料理をしたことのない私にとっては、柚音が言っている『麺茹でてスープ作って、野菜乗せただけ』でもすごく感じる。
自分の14年の人生を隅々まで振り返っても自分で料理を作った経験なんて、小学校の調理実習以外ない気がする。
「自分で作ったなんてすごいね」
私の言葉に返事しようと柚音が口を開きかけた時、通話に遥樹くんが入ってきた。
『もしもし』
お風呂上がりなのか、短い黒髪が濡れていて白い彼の頬がわずかに紅潮している。
『やっと遥樹入ってくれたー。夏休みどうするかちょっと話したくって。澄羽っちはどこで写真撮りたいとかあるの』
「海、学校の屋上、プール、歩道橋、教室、テーマパークのプールとかかな。」
スクールバッグから引っ張り出した水色のノートをパラパラめくりながら言うと、『屋上とかプールって入れんの?』と遥樹くんの声が聞こえてきた。
「大庭先生に許可を取れば入れるよ。」
『あー、ね。当然制服?』
柚音が髪を指でつまみながらまるで他人事のように私にそう問う。
「もちろん。」
『俺学ランとか持ってきた方がいい?』
「一応夏の写真を撮るつもりだから学ランはいらないかな」
『もし必要だったら?』
「大庭先生が冬服貸してくれるかな」
私が遥樹くんの問いに答えると、柚音の笑いの滲んだ声が耳に届く。
『大庭先生激つよじゃん!』
確かに私たちがやろうとしていることはかなり先生頼りである。
「たしかに。いつがいいとかある?」
柚音は確か吹奏楽部に所属していて、コンクールが近いのでその時間は3人では集まれない。
『俺はいつでも。帰宅部暇人だから』
「じゃあ27は?」
『あ…、まあ大丈夫。』
柚音がTシャツのマイメロを指でつまみながらうつむき加減に口を濁した。
『じゃあ決まりだな。』
じゃあ俺頭乾かすから、と遥樹くんが通話から退出する。
「おやすみ」
私はそう言って、画面右下の赤い退出ボタンを押した。



