Capture your memories of one summer ~ひと夏、思い出を切り取って~

                
『吹部のグルラから森村さんのLINE追加しちゃった。急でごめんだけど、ちょっと話したいことがあって』

通話をかけてきたのは縄野柚音だった。

「話したいことって何?」

平静を装いながら、縄野柚音に返事する。

『澄羽さん?に協力してほしいって今日森村さん言ってたよね。あたし全然協力するし、男子も協力してくれる人見つけたよ』

「男子って誰に協力してもらうの?」

『遥樹。』

縄野柚音が言っている『遥樹』というのが一瞬理解できなかったが、おそらく澄羽の隣の席に座っている瀬川遥樹だろう。

「瀬川くん?」

『そうそう。あたし澄羽さんのLINE持ってないから、森村さんから連絡しといてほしいな』

「おっけー。URLおくろっか?」

『おねがいねー』

電話を切ろうと、耳に当てていたスマホの画面を自分に向けるとスピーカーから『ちょっと待って!もう一個話あるから』ときこえた。

わたしは電話をスピーカーモードに切り替え、ベッドにスマホを置いてそのまま寝そべった。

『ソロの件なんだけど。実はあの後、休部兼退部届の紙をもらってきたの』

先ほどとは違う、低く沈んだような縄野柚音の声が耳に届く。

「まさか退部するの?」

画面を下にしてスマホをベッドに置くと、スピーカーからこもった声が聞こえてきた。

『きゅ…するか、た…ぶ……か…迷って…だよ…』

「もっかい言って?」

縄野柚音の言葉を聞き取れなかったので、わたしはスマホを手に持って聞き返した。

『休部するか、退部するか、迷ってるんだよねー。あ、あとこの件は絶対誰にも言わないでね』

わたしは彼女に聞こえないように小さなため息をついて唇をなめた。

『トランペットパート二人になっちゃうのかー。冬華先輩もやめちゃったしね』

ははっ、と電話口の向こうで笑いが聞こえた。

『ま、玲佳ちゃんと碧依のふたりでがんばってね。じゃ』

「はぁ!?ちょっと…!」

通話を一方的に切られ、わたしの声は届かなかった。

盛大なため息を漏らしながら、わたしは大の字でベッドに倒れこんだ。