「はい。」
鈴の鳴る様な高く澄んだ声色に、会場はまた静まり返る。
整列の中を歩き、壇上へと一歩進むごとに静かなざわめきが戻ってくる。
男共が色めき立っているのだろうか?
それとも女共が煩わしそうに陰口を言っている?
あちこちから湧き出るヒソヒソ声は、ぼんやりとしていてちゃんと聞こえてくることはない。
だからまっすぐ前だけを見て、背筋を伸ばして立っていられる。
「卒業おめでとう。」
差し出された卒業証書は、白い輝きを放って仰々しく私の門出を祝っている。
卒業式なんて形式的な節目の儀式くらいに思っていたのに――
今、なんだかとても誇らしい気持ちだ。
「ありがとうございます。」
手にした紙切れ一枚が重たい。
“卒業証書”と印字されたそれを、卒業の実感を噛み締める様にゆっくりと折り曲げて閉じた。
一息ついて参列者達の方に振り向く。
保護者席では傑兄ちゃんが引くほど泣いていて、その隣で渉兄ちゃんも潤んだ瞳で私を見上げている。
胸を張る立ち姿に惚けた顔をしている人もいれば、面白くなさそうな顔をしている人もいる。
あ、天音ちゃん。
彼女の笑顔は今日も優しい。
私を見ている人達の表情がひとつひとつはっきりと見えて、胸が一杯になる。
その中で近江涼介も広瀬真も榛名聖も真っ直ぐに私のことを見てくれている。
(万感の思いって、こういうことを言うのね。)
口元に湛えた微笑みを一層深めて、私はきちんと礼をして壇上を降りた。



