近江涼介が一礼して壇上を降りる僅かな時間、私は近江涼介の視線に応えるようにずっと目を逸らさない。
晴れ晴れして見えるその姿が嬉しくて、柔らかく双眸が細くなった。
「榛名 聖」
「はい。」
それからどんどん名前が呼ばれて、私達の番。
榛名聖はしゃんとした返事の割に緩慢な所作で立ち上がると、緊張感などまるで感じさせずに整列の中を抜けていく。
「キャー!榛名せんぱぁいっ!」
「かっこいい〜!♡」
榛名聖が出てきた途端にあちこちから黄色い声が湧き上がる。
学校では最早ツチノコレベルで見かけなくなった奴は、今や雑誌やSNSでちょくちょく顔を見かけるようになった芸能人。
証書授与を待つ間から、授与を受けて壇上を降り先に戻るまで榛名聖は笑顔でその歓声に応え続けていた。
「……クソ聖。やりづれー。」
コンサート会場に様変わりした空気の中、隣でうんざりした呟きが聞こえた。
そこに諦めの溜め息が続くと、広瀬真は一度俯いてから改めて顔を上げる。
その瞬間にはもう、凛として引き締まった表情になっていた。
「広瀬 真」
「はい。」
騒がしい雰囲気に呑まれない、芯の通った短い返事。
「広瀬せんぱーいっ♡」
「こっち向いて〜っ♡」
榛名聖のせいですっかり無法地帯に変貌した歓声の中でも、広瀬真は毅然とした態度で歩いている。
正面を向く気の強そうな眼差しは意志の強さを感じさせ、奴の性格を表しているのに別人の様に大人びて見えた。
「藤澤 姫。」
――そしていよいよ私の番。



