姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―


ふと、近江涼介がほんの少しだけ体を離す。
触れ合った体温の余韻がその隙間を埋めていた。

「……俺も頑張らないとな。」

優しく細まった双眸は前向きな決意に満ちている。
それがとても嬉しくて、私も同じように微笑んだ。

「まずは受験合格!」

「だな。」

「友達100人目指そう!」

「……そんなにはいらない。」

「好きなものも、たくさん増やそうね!」

「そうだな。」

穏やかに静かに時は流れる。
鼻先が触れ合うほどのこの距離が、今愛おしくてたまらない。

「……ちゃんと会いに行くから!」

「俺も。」

近江涼介の真っ直ぐな漆黒の前髪が私の瞼をくすぐった。
近づく距離に無意識に目を伏せ――息を呑む。

近江涼介の吐息を感じたと思った瞬間、柔く優しく唇が重なった。

――数秒が何万秒にも感じる。
柔らかな感触がそっと離れると、2人同時にゆっくりと開けた瞼を飾る睫毛が擦れ合った。

「約束!……ちゃんとしたからね?」

照れ臭いけど心地いい。
ニッと悪戯な笑みを見せると、近江涼介も小さく微笑んで、「わかった」と頷いた。

夜に近づいて日が少し弱まって、でもまだ暑さを届けている。
この日常も今日で最後。

私達は望む未来に向かってそれぞれに進んでいくことになった。