姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

9月。今日から新学期が始まった。

友達との久しぶりの再会にクラスメイト達は喜びながらも、その話題は「予備校が」「模試の結果が」と近況を伺い合うようなものでもちきりだ。

榛名聖は今日もいない。
広瀬真と近江涼介とも、軽い挨拶を交わす程度で、再会の喜びの余韻もなく淡々と1日が過ぎていった。


――そして放課後。
私と近江涼介は古い図書館の学習スペースで、隣同士で2人きり。

そこには会話もなくて、シャーペンが紙の上を滑る音と冷房の稼働音だけが静かに響いている。

ただ近江涼介と2人、空間を共有するだけの放課後。
これが最近の日常。

夏の夕方は日が長く、閉じたブラインドの隙間からは強い日差しが漏れてこちらまで伸びていた。

「――あのさ、」

忙しく動いていた近江涼介の手が止まったのを見計らって声をかける。
集中を途切れさせるのを躊躇うように、ほんの少し声が掠れた。

端正で淡白な無表情がこっちを向く。
だから私も体ごと近江涼介と向き合った。

「進路、決めたの!」

胸が迫り上がるような鼓動に唇を噛む。
目を見開いて見つめた近江涼介の顔は、淡々として凪のように静かだった。

「……ふーん、それで?」

無機質な返し。でもそれは私の話を聞こうとしている表れだ。
それに背中を押されて、私はまた話し出した。

「私……私ね。近江涼介達と出会うまで、ずっとひとりぼっちだったの!
だから不貞腐れて、捻くれて、女なんか嫌いだってずっと意地を張ってたの。」


“姫ちゃんっておとこのこといるほうがすきなんでしょ?”

そんなこと言ったこと一度もないのに。
勝手決めつけて拒絶された。それがとても悲しかった。

「近づいたってどうせ受け入れてもらえないって……
私も決めつけて誰彼構わず攻撃してた。」

語る拳に力が籠る。
胸がギュッと熱くなって、速く高く鼓動が鳴っている。


――気づいたの。

人が私を嫌ってたんじゃない。
“私が人を嫌っていた”んだって。