「そうそう〜。偶然タイミング被っちゃったけど、それで言うと俺もあんまり来られなくなるかもしれないんだよねぇ。
旧校舎どころか学校に。」
「「え!?」」
大円団で締め括ったみたいな後で、榛名聖が紅茶片手にサラッとそんなことを言って、私と広瀬は同時に声を上げた。
近江涼介も喋らなかったけど眉が反応していたのでこれには驚いた様だ。
「なんで!?まさか家の事じょ……ヴッ!」
私が騒ぎかけたのを広瀬真が思い切り肘で突いて阻止する。
コイツさっきから手荒じゃない?
今度100倍にして返すから。
「モデルの仕事が決まりそうなんだって〜。
高校はちゃんと通いたいから、本格的に動くのは卒業後ってお願いしてたんだけどね?
いくつか仕事のオファーがもうあるらしくて。」
榛名聖は困ったように笑っているが、その目は前を向き輝いている。
「その中にちょっと大きいファッションブランドもあってね。
迷ったけどチャンスだから受けてみようかなって。」
なんだか違う世界の話みたいでイマイチ現実味が湧いてこないけど、榛名聖も未来に進む選択をしたということか。
「仕事っていつから始まんの?」
「んー。早いのだと来週からだねぇ。オファーの他にも宣材写真撮ったりオーディションがあったりとか、なんか色々あるみたい。」
「急に忙しくなるんだな。」
広瀬真と近江涼介にいろいろ聞かれて、楽しそうに話す榛名聖のことを見つめる。
――みんな、急にいなくなる。
「……?」
自分自身も気付かない、私の顔の一瞬の曇りを近江涼介だけが察知する。
ズキン、と胸が傷んだ気がしたのを、首を振って否定した。
……だって、嬉しいことだもん。
家や愛されなかった過去に囚われて荒んでいた頃を思い出すと、真っ直ぐ前を向こうとしている今の榛名聖はすごく変わったと思う。
清々しい笑顔で私達を見て嘘偽りなく語る榛名聖に、子どもの成長を喜ぶ母親の様な気持ちになって心があったかくなった。
「あ、ひーちゃんが親とかやめてね〜。有り得ないから。」
「また思考読んできた!」
なんの悪びれもなくあはは、と笑う榛名聖に恐れをなして青ざめる。
榛名聖がそんな私を揶揄って遊ぶ最中で、広瀬真は近江涼介の方を見た。
「姫の進学先候補はなんとなく知ってっけど……涼介はどうすんだ?進学?」
広瀬真の問いに私も榛名聖もピタリと戯れ合いを止めて近江涼介の方を見る。



