翌朝、HR前の賑わう教室で私は1人着席して精神統一をしていた。
(大丈夫。いつも通りいつも通り……)
呪文の様に唱えて緊張感を紛らわす。
言いながらも、3つの空席をチラチラ確認してしまうけど。
(別に、私が自分や広瀬真の気持ちをただ知っただけのことだし?
――つまり表面上何も変わっていないってことなんだから、ソワソワする方がおかしいのよ。)
落ち着いて思考すれば、いくらか気持ちが穏やかになる。
フッと余裕の微笑みを浮かべ、ゆったりと深く椅子に背中を預ける様に座り直した。
教室にいるジャガイモ共は今日も私を見て惚けているし、女共も今日も元気に私を毛嫌いしている。
即ち今、“いつも通り”がちゃんとできているということだろう。
「ひーちゃんおはよ〜。」
「びゃッ!」
背後から急に声をかけられて飛び上がってしまった。
おまけに潰れたヒキガエルみたいな声も出た。
「あはは、すごい声だったねひーちゃん。
その声どっから出したの〜?」
フーフーと深めに息を吐いて動悸を落ち着けつつ振り返る。
そこには榛名聖と広瀬真が並んで立っていた。
そしてそのさらに後ろでは、近江涼介が自分の席に着こうとしている姿が見える。
「はよー。」
広瀬真が私に見向きもせず、いつも通り無愛想に短い挨拶をした。
昨日のことがまるでなかったかの様に、私を通り越し自分の席に着く。
「うん、オハヨウ……。」
あまりに日常すぎる金髪の後ろ頭に拍子抜けしたのと困惑で、ちょっとだけぎこちなくなってしまった。
緊張の気まずさに言い終えた唇にもギュッと力が入ってしまう。
「今日はいつにも増してブスだな、ブス。」
不意打ちで憎たらしい顔が私の方を向き、失礼極まりない言葉を言い放つ。
もう脊髄反射で全ての感情が怒りに変わって、私は丸く大きな目を吊り上がらせた。
「なっ、なんですって!?
この私をブスって言う奴がバカ!」
昨日からブスの使用頻度爆上がりしてない!?
やっぱりあの告白は私の幻聴だったのか!?
「普通にしとけって言ってんだろ。」
ため息混じりの淡白なセリフ。
戦いのゴングを鳴らした私に応戦することもなく、広瀬真はアッサリと前に向き直る。
――そこで広瀬真の気遣いに気付いて、不甲斐なさにギリリと歯軋りした。
(これはいけない!
気を遣わせてる=いつも通りができてないってことだ。)
ダン!と机を強く叩いて威勢よく立ち上がる。
前に座る冷静ぶった広瀬真も、ずっと傍らで傍観していた榛名聖もビクッと揺れたけど気にしない。
そう、それが私だ。
気まずさに緊張してウジウジしてるなんてらしくない。
Let’s いつも通り!
やってやろうじゃないの!



