「あーあ、行っちゃった。
まぁどうせ今行っても、ちょうどチャイムが鳴るくらいなんだけどねぇ。」
「まーくんらしいよね」と聖は苦笑して、暗く視線を落とす涼介を横目に見た。
「涼ちゃんはさ、人の要求を先回りして決めつけて、理解した気になるの悪い癖だから治した方がいいよ〜?
それが今ひーちゃんを苦しめてるんだから。ホント許せないよねぇ。」
涼介を見据えるその表情に笑みはない。
本気で怒っている、そんな声色だ。
「――今何かを言ったって」
涼介の重い口が静かに開く。
そして、次いだ言葉は弱々しくもハッキリと確信を持っている声音だった。
「姫を余計に混乱させて苦しめるだけだろ。
俺がやるべきことは一時の感情に応えることじゃなくて、“変わらない友達関係を示し続けること”だ。」
(……やっぱりひーちゃんの恋愛へのトラウマと、友情への信奉に気づいていた。)
聖は心の中でそう思う。
涼介の出した結論も、自分のものとほぼ同じ。
ただ、それを担う人物が違うだけだ。
「ふーん。じゃあこの先ひーちゃんが誰かと恋をして付き合っちゃったりすることになっても問題ないってことね。
あんなこともそんなこともするかもしれないけど〜。」
意地悪な聖の煽りに、涼介の眉が一瞬ピクリと動く。
それでも一度目を閉じて、感情を完璧に抑え込むと淡々とした口調でこう言った。
「姫が笑うならそれでいい。
そのために俺はこの結論を選んでる。」
「ムカつくくらい綺麗事だね〜。
……まぁいいや。それならせいぜい頑張って友達やってればぁ?
その場合、絶対にボロは出さないでほしいけど。」
涼介が煽りで感情的になる可愛さがあれば、姫の母親の一件を教えようかとも思ったが……
と聖はため息をつく。
涼介が姫を振り回していることへの怒りが、判断を捻じ曲げる。
(少しくらい葛藤して苦しめば?)
――と心の中で舌を出して、聖も空き教室を後にした。



