玄関のドアを開けると、心配そうな顔をした傑兄ちゃんと渉兄ちゃんが急いで駆け寄ってきた。
「姫ー……ごめん!でも心配した!」
冷え切った体に包容されて、じわっと体温が戻っていく。
今日だけは傑兄ちゃんのスキンシップに感謝したい。
「聖くんありがとう。寒かったよね、早く入って。」
耳や鼻の頭を真っ赤にしして帰ってきた榛名聖を、渉兄ちゃんは申し訳なさそうにリビングへと促した。
ドタバタとみんなでリビングへと戻ると、お母さんは同じ場所に座っている。
ただ表情には動揺というか、心配というか、そんな不安が伺えたのだが――
私と目が合うとハッとして朗らかな笑顔に戻った。
(一応母親らしい感情もあるのね。)
榛名聖と話した後だから、気丈に振る舞っていたのも本音を隠していたからなんじゃないかと冷静に分析できる。
私の手を握っていた傑兄ちゃんの手をするりと解いて、お母さんの前に座った。
「お父さんとは上手くいってなかったの?」
背筋を伸ばして真っ直ぐ彼女を見据えた私に、お母さんはちょっと驚いた顔をしてから苦笑した。
「……そうね、あの人仕事ばかりだったから。
私は築きたかったキャリアを全部捨てて、家族優先にならざる負えなかったのにあの人は……
って、不満だらけで気付けば喧嘩ばかりだったわね。」
傑兄ちゃんと渉兄ちゃんは薄々気づいていたのだろう。
私の方を見て、私を心配してばかりの様に見えるから。
胸がジクジクと痛む。
目を伏せてその痛みをグッと堪えた。
朧げでも幸せだった家族の思い出が黒く塗り変わっていくのは悲しい。
――でも、ちゃんと向き合いたい。



