私の思考を読んだかの様な榛名聖の言葉に、驚いて目を見開く。
「そもそもさ、因果関係が逆なんだよ。
“恋をしたから夫婦関係が破綻して家庭も壊れた”じゃなくて、“もともと夫婦関係が破綻していたから別の男に恋をした”だと思うんだよねぇ。
ウチの場合は、だけど。」
壊れたのは恋のせいじゃなくて、元々壊れていた……
子どもの私には見えなかった何かが、もしかしたらあったのかもしれない。
その結果、お母さんは別の人を求めたってこと?
揺れるブランコから榛名聖はそっと降りて、もう一度私の前に立つ。
街灯の仄かな光を遮る影に、私は優しく微笑む榛名聖の顔を見上げた。
「不倫は悪いことだけど、“恋”そのものは悪ではないんじゃないかなぁ?
……むしろ大切な感情だよ。理性で否定できるものじゃない。」
それは決して不倫を正当化するものではなくて、私に言い聞かせるための言葉に聞こえる。
救いの手を差し伸べて、“笑って”と願うような。
「……いつかの逆みたいね。」
榛名聖のいじけた顔を見下ろしたことを思い出して、ふっと思わず笑みが溢れる。
それを見た榛名聖も一瞬目を見開いて、嬉しそうに眉尻を垂らして微笑んだ。
「――私、お母さんと話してみる。」
ブランコから跳ねる様に降りて、榛名聖にそう宣言した。
その時の心にはもう不安も揺らぎもなくて、すごく清々しい気持ちだった。
「うん。暴走しそうな時はちゃんと止めるから安心してブチギレておいで〜⭐︎」
「ちょっと!なんでブチギレ前提!?ちゃんと冷静に話せるから!!」
暗くて凍えそうな寒さの冬の公園に、私達の賑やかな笑い声が響いた。



