「兄ちゃん達は、お母さんが海外赴任してないことも不倫のことも知ってたのよね。」
「……多分ね。」
「今まで気づかないくらい嘘が上手だった。
……きっと私が“お母さん”ってビービー泣くから、その度にたくさん嘘をついてくれていたせいよね。」
「……かもねぇ。」
「兄ちゃん達はずっと傷ついてたのかなぁ。
お母さんが別の奴に恋なんかしたせいで、家族が壊れちゃった。」
は――、と長い長い息を吐いて胸のつかえを取り除こうとする。
すると、頷いていただけの榛名聖が静かに口を開いた。
「俺ね、多分父親と血が繋がってないんだよねぇ。」
突然の告白に驚いて顔を上げると、ずっとこっちを見ていたであろう榛名聖が自嘲気味に微笑んでいる。
「母親の不倫でできた子どもってコト。」
なぜそんなことを今教えてくれたのだろうか?
どう反応すべきかわからず話の続きを待っている。
重い話だし少し言いにくそうにしていた様にも感じていたのに、次の瞬間には榛名聖はぱっと緩い笑顔に戻った。
「俺の母親は自己中で常にチヤホヤされてないと気の済まない体質でね〜。
一方戸籍上の父親は釣った魚に餌をやらず、家庭も顧みないタイプ。
父親に構ってもらえなかった母親は、それを慰めてくれた優しい男に恋をして不倫しちゃったってわけ。」
「恋……」
引っかかった単語をポツリと呟く。
ここでも“恋”のせいで色んな人が傷ついて――……
「でもね、ひーちゃん。
俺の家族が壊れているのは、母親が恋をしたせいではないと思うんだよね。」



