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リビングのダイニングテーブルに、私と榛名聖、母親で向かい合って座る。
生活の痕跡が残るごく普通の家のリビングに、タイトスカートを穿いて頭の先から爪先まで隙なく整えた生活感のない母親は明らかに浮いている。
渉兄ちゃんの席にこの人がいることも変な感じだ。
「自己紹介が遅れてごめんなさいね。私は樹里。姫の母親。
おばさんって呼ばれるのは嫌だから、“樹里さん”って呼んでね♡」
榛名聖が淹れてくれた紅茶を一口飲んで、母親が明るくそう言った。
首を傾げて笑うと、長い髪が揺れて高そうな香水の香りがふわりと広がる。
『姫〜!可愛いっ♡さっすが私の娘♡』
朧げに抱きしめられた記憶に、その香りが結びつかない。
だからだろうか?
目の前にいる人を母親だと認識しているのにまだ実感が持てずにいる。
(ずっと会いたくて、寂しかったはずなんだけどな。)
小さい頃、母親に会いたいと夜な夜な泣いて兄ちゃん達を困らせた記憶はあるのに。
今何の感情も湧いていないのは、あれから時が立ち過ぎてしまったからか、まだピンときていないからなのか。
……というか、あれ?
この人との記憶って、結構曖昧なんだよな……。
“このことはお母さんと姫の秘密だよ?約束。”
最近思い出した台詞だって、何のことだかまだ思い出せないし。
「今は高校生?いいわね〜!1番楽しい時期じゃない。
私にもあったわぁ、そんな時が。」
母親は好き勝手に喋りまくるから、こちらが何かを聞く隙がない。
どういう顔をして良いものか私が葛藤している間を、榛名聖が繋いでいた。
「樹里さんお綺麗だから、当時は相当モテてたでしょうねぇ。うわぁ、見てみたかったな〜。」
胡散臭いほどの愛想の良さ。
おまけにヨイショも上手いから母親も気分が良くなって喋る喋る。
途中でそれに気づいて、葛藤も忘れて榛名聖に恐れ慄くようになったほどだ。
「今の姫そっくりだったわよぉ。
でも、姫の方がちょーっと地味ね。私はもっとキラキラしてたもの。」
あっけらかんと言われた言葉に耳を疑う。
地味なんて生まれて初めて言われた。
そして「私は地味ではなく“清楚系美少女”だ!」と私の脳はすかさずツッこんだが、声にはならなくてただフリーズしただけだった。
「ひーちゃんは可愛いですよ?」
私を下げたことなど認識もしていなさそうな母親がもう次の話題に移ろうとしたのを、榛名聖の色香のある声が遮った。
一瞬の沈黙に、榛名聖は畳み掛ける。
「世界で1番。」
(は……ッ!?)
部屋中に花が舞ったかの様な錯覚と、榛名聖の柔らかに細くなった双眸に言葉を失ってしまった。



