姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

人混みはなかなか進まない。
焦ったい足音がダラダラと続く。

姫が頭を左右に動かして前を見ようとして、先が見えずに眉を顰めた。

「待ち時間長っ。トナカイ見たしここでメリークリスマスして離脱しちゃダメなのかしら。
それじゃクリスマスにならない?」

どうやら痺れを切らしたらしい。
面倒くさそうな顔をしている。

“気分屋かよ。”

――そう言おうとした時、姫がハッとしたような顔をして自分の口元を手で押さえた。

「……っとと、いけないいけない。こんなこと言ってるとまた近江涼介に“並ぶ手間惜しむ奴がクリスマスなんかするなよ”ってツッこまれちゃうわね。」

何を思い出したのか、ふふ、とくすぐったそうに笑う姫に時が止まる。

「しょうがない、ちゃんと並んで拝みにいくかぁ。」

呑気な声が遠のいていく。
人混みの流れが、よりゆっくり進んでいく様な感覚。

――心臓がキーンと凍った。

“恋愛なんてね、今どうする気もなくても、
ちょっとしたきっかけで次々欲が湧いてくるものなんだから!”

聖の忠告を思い出す。
俺が恋心を認めたのはただ自分の気持ちをハッキリさせたかったからで、姫との関係を変える気なんてさらさらなかったはずなのに。