「無理。」
甘やかな低音、そのくせ淡白で短い単語が高い天井に反響した様に鼓膜に届く。
――は?
今、無理って言った?断られた?私が!?
不測の事態に脳内はパニック状態で、ワナワナと手が震え出しそうなのをなんとか堪える。
驚き呆然と目を見開く私の後ろ姿に、今度は女共のクスクスと馬鹿にしたような笑い声が刺さった。
クッソ、なんで私が笑われてるわけ!?
初めて見る男の横顔に、笑顔を取り繕いながら恨みが募る。
屈辱で腹の中がカーッとなる最中、金髪からのトドメの一言。
「涼介が無理って言ってんだから無理なんだよ!
消えろ、“ブス”!」
あ、もう無理。
怒りの糸がブチっと切れる音がして、気付けば拳を握りしめていた。
――その手にカフェラテを持っていたことも忘れて。
瞬間飛び出す茶色の液体。
金髪の「ゲッ」という顔と茶髪の「わっ」と言う顔がスローモーションに見える。
あっ……!と思った時にはすでに遅し。
茶色の液体は見事に白いスラックスの布地に被弾。
そして染み込みじわじわとのその勢力を広げていく。
しかも狙ったかの様に股間直撃。
手前にいた黒髪の、である。



