姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―


ごくり。
なんでか緊張が走って唾を飲み込む。

前屈みで私に迫っているせいで、近江涼介のしなやかな前髪がさらりとこちらに流れる。

知らない石鹸の匂いと、仄かに感じる近江涼介の呼吸。

ぶつかった視線は絡め取られたみたいに逸らせなくなって、声を出すのも憚られる。


自分の心臓の音が耳の奥に響く。
鼓動が速く、そして強くて少し痛いくらいだ。


“この事は――――と、姫と2人だけの秘密だよ?約束。”


鼓動に全身を支配されそうになった時、頭の中で優しく言い聞かせる声がした。


……あれ?
これは誰の言葉だっけ。

思い出せない、けど、

このままだと大切なものを失っちゃう。


底知れぬ恐怖にヒュッと息が止まる。
胸の鼓動がピタリと止んで、なぜか緊張が走った。

「……――達、は、」


喉に詰まってしまった言葉を、どうにかして絞り出す。

得体の知れない感情に、飲み込まれてはいけないと思うから。

「私達は……ずっと友達だよ、ね?」

なんでそんなことを聞いたのかは、自分でもわからない。

でも確かめないとどうしてか心細くて、揺れた瞳で近江涼介を見つめる。

少しの間。それすらももどかしい。

「――ね?」

固く感じる表情筋を無理やり動かして笑顔を見せる。

近江涼介の手が近づいて、何かを迷う様に一瞬動きを止める。
触れるほどの距離だった顔が離れて、代わりに髪をぐしゃりとかき乱された。

「当たり前だろ。」

その時の無表情も、素っ気なさも、それに矛盾する手の優しさもいつも通りで安堵する。

「そうだよね!だよね、“友達”って“そう”だもん。」

自分の返答に表情を緩ませた私を、近江涼介は黙って見つめていた。