「まぁね。
……あんまりいい思い出はないけどー…。」
今度は暗い微笑み。
同じ顔なのにコロコロと印象が変わるのは、自然光が生む陰影のせいだろうか。
榛名聖の口が、開きかけて、閉じる。
ギュッと握った拳がふわりと緩んで、軽い足取りで私の一歩前に出た。
「やめよやめよ〜。こんな話!
面白くもなんともないしね〜。」
榛名聖が振り返ってこっちを見る。
淡い冬空に溶け込む様な、無垢で優しい笑顔だ。
「俺はね?今、“書き換え中”なの。」
少し離れたところで、広瀬真と近江涼介が私達を急かす声がする。
私がそこを見ると、榛名聖が手を差し出す。
「くだらない過去に囚われてる暇はないよ〜。
――行こ、ひーちゃん。」
(これは“手を取れ”ってこと?)
なんだかよくわからないまま、とりあえずその手を取る。
握り合う手はお互いに冷たくて、あまり感触がわからない。
――私の手を引いて、前を向く榛名聖から笑顔が消える。
そして、彼は思う。
(“これ”は、予想以上に根深いかもな。)



