視点が定まらずテーブルに置いた右手と左手を行ったり来たりする。
その様子を見て榛名聖が心配そうに苦笑して呟いた。
「大丈夫だよひーちゃん。
俺がちゃんと、“救ってあげる”から。」
「えっ?」
小さな声は私の耳に届かなくて、緊張したまま榛名聖を見て首を傾げる。
表情筋は相変わらず上手く機能している気がしなくて、無理やり口角を引き上げた。
「なんでもないよ〜?
さっ、渉さんが帰ってくる前に夕飯作っちゃおうか⭐︎
今日の献立はビーフシチューだって〜。」
「わっ…渉兄ちゃんから台所に立つ許可まで!?
なんなのアンタ、そのうち私の家の表札“榛名”になるんじゃない!?」
「わー、また変なこと言ってる〜。
とにかく早く作ろ!後1時間で渉さん帰ってくるよ〜?」
「なんで渉兄ちゃんの帰宅時間知ってんのよー!」
気がつけば榛名聖のペースに巻き込まれて、いつもの調子を取り戻す。
ドタバタと騒がしく支度をしている間に、胸のモヤモヤも忘れてしまった。


