「許せない許せない許せないッ!
アンタの周りの大人、全員頭おかしいんじゃないの!?
近江涼介を犠牲にして家庭の平和を保つなんて、そんなの幸せって言わないから!」
キン、と狭い部屋に私の声が反響する。
冷えた部屋の窓枠が震えた。
怒りで震える私の頭に、ポンと近江涼介の手が乗っかる。
そのままじっと静止しているのは、「落ち着け」の合図だろう。
フーフーと肩で荒く深呼吸してまだ出し足りない感情を堪えた。
「助けてほしいとか、思ってない。」
その言葉に、強がりも嘘もなかった。
見上げた顔はいつものなんの感情も感じさせない無表情。
近江涼介の痕跡を少しも感じない部屋で過ごすことを、当たり前のように受け入れてそこに居る。
「なんっで何も思わないの!」
――でも、だからこそそれがすごく悲しくて、悔しい。
「気づいてないかもだけど、アンタ今ボッコボコに殴られ続けてる状態なんだからね!?
まぁ気にすんなって言われても無理だから!」
いつか、広瀬真と喧嘩した時に近江涼介に言われたことを思い出す。
“友達が傷つけられてるのに、それに気付いていなかったら腹立たしかったり悲しくなったりする”
そう教えてくれたのは近江涼介じゃないか。



