母親が俺に死んだ兄の代わりを求めていたことも、この時期にちゃんと知って理解した。
見たことも会ったこともない奴そのものにならないといけないわけだから、母親の顔色を逐一伺って行動を決めるようにしていた。
底抜けに明るくて少しお調子者。
体を動かすのが大好きで、勉強は嫌いな元気な少年。
母親が示す通りに行動していたら、そんな人格が出来上がった。
人の思考や求めているものがなんとなくわかる特技はその副産物。
ただ、代償だってある。
“涼”を演じている内に、俺は自分の好みや感情が全くわからなくなってしまった。
何を見ても、食べても、聞いても、体験しても全て“涼なら多分こう”という思考で言動を決める。
「楽しいね」とか「面白いね」と言われても、俺自身は1ミリもそれがわからない。
だけど、“涼”なら笑いそうだから笑顔を作って笑い声を上げてみる。
行動の全てがそれだから、“自分”が消えていく感覚すらわからない。
気づいたら、俺の中の俺はいなくなっていた。


