“涼ちゃん”は、“涼ちゃん”は、と今度は泣き始めた母親と、母親を宥めるので手一杯でこちらに見向きもしない父親。
地獄のような時間をどうしたら終わらせることができるのか、俺は子どもなりに必死に考えた。
震える唇を、やっとの思いで歪ませる。
「お母さんが作ったハンバーグ、嬉しいなぁ。」
そして、笑う。子どもらしい無邪気な顔で。
「にんじん食べなくていいって本当?じゃあこれはお母さんにあげるね!」
自分の皿のにんじんをポイポイと母親の皿に移して、笑顔でハンバーグを頬張って見せる。
父も母も初めはポカンとしていたが、母親はみるみるうちにいつも通りの笑顔を取り戻した。
「もう、涼ちゃんったらゲンキンな子なんだから。
今日だけよぉ?」
「えへへ、やったぁ!」
――よかった、元に戻った。
そう安堵したのに、安全な場所を揺るがす恐怖がずっと腹の中を渦巻いている。
吐きそうになるのを我慢して食べたから、ハンバーグが苦手になったけど、そんなこと言えるわけがなかった。
それ以来、俺は意識的に“涼”であることに努めた。


