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館内に一歩足を踏み入れると、外とはまるで違う世界に思わず怒りを忘れた。
少し寒いくらいに涼しく、薄暗い中にポツポツと点在する水槽が明るく照らされている幻想的な空間。
色とりどりの熱帯魚が泳いでいたり、チンアナゴがひょろひょろ水に揺られていたり。
それぞれ水槽ごとに小さな海が広がっていて、順路を歩きながらキョロキョロとしてしまう。
(水族館なんて、小学生ぶりくらい?)
記憶も曖昧なため、新鮮な光景にちょっとソワソワしてしまう。
「すごいね!魚!いっぱい!」
「水族館だからな。」
無表情で繰り出された冷静なツッコミに、湧き出した子供心もワクワク感も引っ込んだ。
ム、と口を結び、誰かさんのせいでテンションが下がってしまったことを強調する。
そんな私の顔を見ている近江涼介は、少し意外そうにしている。
「……初詣はショートカットしようとする癖に、こういうのは好きなんだな。」
「並んで待つのと人混みが嫌なだけ。
水族館は……、まぁ……悪くないわね。」
面と向かって“好きなのか”と問われると、ちょっと言い淀んでしまう。
だってハッキリ好きだと思っていたわけではないし。
ただ、この空間を目にした時から今も綺麗だとかすごいとか思う。
だからこれが好きと言う感覚ならそうなのかもしれない。
視線を宙に彷徨わせている私を、近江涼介は意味深なくらいじっと見つめて、「そうか」とだけ呟いた。



